ジャックダニエル

悪は存在しないのジャックダニエルのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.4
悪は存在しない。

思えば印象的な会話は車中で行われていた。
濱口竜介の映画は車内での会話に鍵が置かれていることが多い気がする。

善悪判別させない位置に配置されたカメラとカット割によって巧と東京サイドどちらに肩入れすることなくフラットに観ることができた。

必要最低限の芝居によって巧から醸し出されるミステリアスさは仮に彼が人間を超越した突拍子のない存在だったとしても納得できるものだった。

自然とバランスを取って生活する巧と花にとって東京から開拓に来た彼らは間違いなくイレギュラーであったし彼らのしようとしていることはそのバランスを犯すものだった。
彼ら水挽町の人間からしたら彼らは間違いなく悪であった。

「水は低いところへ流れる」
「上流で起きたことは下流に影響する」

この言葉の通り、物語序盤、説明会で起きた不和は物語終盤に間違いなく影響していて、だから突然のラストの展開に説得力がある。
彼ら東京の人間がどうしても悪に思えないのは編集の力もあるが映画本来の特性の部分に関係すると思う。
例えば彼らも割り食ってるんだなと思うプレイモード社内のシーンと車中での会話。
これは観客の我々だから知っていることであって、水挽の人間からしたら知るよしもないこと。
問題の説明会からまた戻ってきて管理人を押しつけられているに過ぎない。
これら全ての流れがラストシーケンスに繋がる。
結果森に入って怪我をした黛と、巧に落とされた高橋にはしっかりと罰が下っている。
水挽からしたら悪はしっかりと存在していて、「悪は存在しない」というのはあくまでも我々映画を見る観客の主観でしかないとも捉えられる。
まさに無関係でいられない物語なのである。

ここまで観た人それぞれが思考を巡らすことができる、流石濱口竜介の映画だと思った。
鹿と生死を結びつけ、表現している映画は名作揃いだと思う。

あ〜余韻が抜けない。なんて大傑作。