ゆみ

悪は存在しないのゆみのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
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濱口監督の「本読み」では、感情を乗せずにいわゆる棒読みをさせるとのこと。
この映画を観る前にそう聞いたときは、それは役になりきらないということなのかと思ったけど、むしろ逆なんだろう。これまで身につけてきてしまった振る舞いや声音を捨てて、ただ与えられた台詞と行動だけを追っていくと、役と身体とが純粋に馴染んでいく。言葉と行動というのはとても力のあるものなので、それだけで人格を形作ってしまう。余計なものが挟まっていないほうが、相手の言葉(セリフ)にも率直に反応できる。
観ている側として、すっと入り込んでいける感覚があったのも、そこに余分なものが乗っていないからなんだろうな。

ストーリーに関して。
人と人のあいだにも、人と自然のあいだにも、作用があって反作用がある。そういう大きなもののなかの必然としてすべてを捉えた。形のない思いが、ほんの小さなことを引き金として、本人も思いもせぬ形に育つことがあるということ。

音楽がとてもよかった。映画館を出たあと、サントラを聴きながら家に帰りたかった。
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