oguchi

悪は存在しないのoguchiのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
2.8
観終えた率直な気持ちは、物足りない……だった。
引き込まれる所は沢山あった。おもに東京の住人たちの視点パートは。
まどろっこしさを感じる映像も退屈というより、作り手の宣言のようでもあり意外とのれた。この映画はこういう時間を描きますよー、合わない人はすいませんねー、みたいな感じで潔いと思う。

ただ、その時間感覚、リズム、スピード感は物語展開に合わせて調節して欲しかったなーと思ってしまった。
まんべんなく同じリズムで最後まで描写された印象が強い。だからあのラスト。
観客に何かを残した、というよりも不完全・未整理の物語を見せられた味わいが強い。
不穏なトーンづくりが上手い作品なので、ああいうラストに向かっているんだろうなーとは予測出来る。であれば後半もっと映像的に強度を増していくとか、より音楽の演出にこだわっていってもらえたら結構強い作品になれたのでは?
森を描写する映画って結構多いので、この映画は過去作られた強い映画と比較してどうか? となると、そんなにかも……とはなる。

濱口竜介監督の最新作なのにシネコンではかからず、上映館も少ない。その時点で「濱口作品を観にくる人」に届ける間口の狭さと意思があり、ミニシアターで観て下さい宣言をしている気がする。
それは頭の良い仕事の仕方だと思うし、映画館で観るという楽しさは堪能出来た。

この内容で制作出来たのは濱口監督が自身のブランド化に成功したからだと思う。
無名の監督では制作費が集まらないと思う。
監督の(良い意味での)詐欺師ぶりは達者で面白いと思うし、すごいと思う。
だから少し疑問に思うことがある。濱口監督だから成立した映画であることは分かるのだけど、観客もけむに巻かれていないだろうか? この内容でこの描写力で「すごい映画」なのだろうか?

映画の内容的にも他人を騙す、自分を騙す、ということに触れていると思うので気になった。
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