MasaichiYaguchi

人間の境界のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
4.0
ポーランドの名匠アグニエシュカ・ホランドが、ポーランドとベラルーシの国境で“人間の兵器”として扱われる難民家族の過酷な運命を、難民家族、支援活動家、国境警備隊など複数の視点からスリリングな展開と美しいモノクロ映像で描く。
「ベラルーシを経由してポーランド国境を渡れば、安全にヨーロッパに入ることが出来る」という情報を信じ、幼い子どもを連れて祖国シリアを脱出した家族、やっとのことで国境の森に辿り着いたものの、武装した国境警備隊から非人道的な扱いを受けた末にベラルーシへ送り返され、更にそこから再びポーランドへ強制移送されることになってしまう。
一家は暴力と迫害に満ちた過酷な状況のなか、地獄のような日々を強いられる。
本作のキャストには実際に難民だった過去や支援活動家の経験を持つ俳優たちを起用し、2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で審査員特別賞を受賞している。
だから本作には、ドキュメンタリーと見紛うほどの圧倒的なリアリズムが産み出されている。
欧州議会選挙が6月6日~9日に実施予定だが、その選挙において近年の欧州各国で勢力を強める右派政党、とりわけ強硬な移民規制や自国優先主義を掲げる極右がどれだけ議席を増やすかが注目されている。
この映画が描いていることは“フィクション”ではなく、我々が向き合わなければならない現実だと思う。