いずみたつや

あの歌を憶えているのいずみたつやのネタバレレビュー・内容・結末

あの歌を憶えている(2023年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

疑念が信頼に変わる様をゆっくり静かに語る誠実さ。これ見よがしなサスペンスではなく、ごく自然な引き算の演出、演技がかえって映画でしか味わえない深みを醸し出していました。表情や目に映る感情の機微を掬いとるような繊細な演技は、言葉よりも雄弁に語りかけてきます。

人生を決して誰にも渡さないという2人の強い意志の向こうに見えてくるのは、「気高く犯しがたい個人」という人間の姿。

彼らのように性被害や病気に関わらず、日常を傷つけたり制限したり諦めさせようとする力はあらゆるところから降り注いできます。

理不尽に人生を邪魔される苦しみを知っているシルヴィアが、自分の娘の人生をコントロールする側に回ってしまうところも悲劇的です。

ただ、この圧力を見事にいなして母との関係を自分なりに構築していく娘が清々しく、若くフレッシュなエネルギーで母を癒やしていく逞しさが、記憶という過去のものに囚われていた2人の未来への扉を開く鍵になるのも感動的でした。

使い古されたと言っても過言ではない名曲『青い影』がしんみりと心に沁みて新鮮な美しさを帯びてきて、大切なプレイリストとして今後も何度も聴くことになりそうです。
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    Shoot them again! Their soul's still dancing!