たく

女優は泣かないのたくのレビュー・感想・評価

女優は泣かない(2023年製作の映画)
3.8
落ち目の役者と日の目を見ないディレクターがぶつかり合いながらドキュメンタリー制作を進める話で、前半のコメディタッチから、後半で二人それぞれが自分が逃げてた問題に向き合っていくシリアスのギャップにジーンと来た。主演二人が役にハマってて、特に伊藤万理華はいい役者さんになったと思う。マナカナで一世を風靡した三倉茉奈が役者をしてるのを初めて知って、その演技力の高さに驚いた。園田に寄り添う同級生役の上川周作の人懐っこさと一途さも良かったね。舞台となる荒尾は遥か昔に一度だけ行ったことがあり、ちょっと感慨深かった。

まずファーストカットで手配ミスからイライラした園田の無駄にプライド高き女優然とした態度を見せて、代理スタッフとして現場によこされた新米ディレクターの瀬野とのギクシャクした密着ドキュメンタリー制作が進行していく展開。ドキュメンタリーなのに台本があるのは「熊は、いない」にも出てきたし、実際に洋画のドキュメンタリーは演出を感じさせる作品が多いので、ある程度業界の常識なんだろうね。

園田にヤラセと看過されるのをあくまで演出と強弁する瀬野が嫌なキャラな一方で、返す刀で園田の演技力の低さを指摘するところに二人がお互い様な関係であることが示される。園田が父との確執を始めとして家族と10年もの絶縁状態にあるのに、あえて地元に戻り、しかも家族に黙ってドキュメンタリーを撮るのがちょっと無理筋な設定で、本作の泣き要素が今ひとつしっくり来なかった。

制作が進まず姉との関係も悪化する八方塞がりな展開にハラハラしたところで、父の思わぬ愛が明らかになるのはあるあるの演出(最近だと「TOVE/トーベ」)。園田が女優を目指した理由が亡き母との約束なんだけど、やっぱり父に対する愛情が根底にあって、焼飯のほっこりするエピソードは東京ガスのきたろうと初音映莉子の泣けるCMを彷彿とさせる。泣けない女優だった園田が最後にあえて「泣かない」(=タイトル)を選択するところに彼女の前進を見せるのが上手かった。
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