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52ヘルツのクジラたちのrのレビュー・感想・評価

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
3.7

物語的に綺麗すぎるとも言える設定を役者の力で超えていく。全てを牽引する杉咲花さんが素晴らしすぎる。感服です。
底に流れ続ける源流がなんとも清らかで、当事者しか知り得ない痛みがスクリーンを飛び越え観客のエモーションの蓋を外す。これは四方八方からの啜り泣きにも納得。
原作を映像化するって難しいことだと毎度思うけど、この作品は映画化するにあたってできること全部を見事やってのけてるんじゃないかなと思う。あくまでも外側の人間が勝手に思ったことだけども。

台詞と並走しながら与えられた尺でぴったりと綺麗に収まる手持ちカメラの動きが良かった。あれは1カットの台詞の長さを基に計算し尽くして動いているんだろうか。それ位ドラマチックな演出に貢献していたと思う。

貴瑚のキャラクターに一貫性が見出せなくて、序盤は?となったのだけど、振り返って考えると彼女はいつも周囲に求められるままに全力で自分を絞り出す人だったのか、と思い辛くなった。そうしてクタクタになってしまう人っているんだよな。

舞台挨拶で、珍しく緊張してしまい話そうとしていた内容が飛んでしまった、という杉咲花さんが沈黙する間、ただ静かに次の言葉が出てくるのを待つ観客が生み出す静寂に、この映画が持つ可能性が詰まっていた気がする。その人が向き合うものへの想像力を忘れずにいたい。
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