北村有

52ヘルツのクジラたちの北村有のネタバレレビュー・内容・結末

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

忘れられないのは、アンさんが自分のジェンダーについて母親に知られたときにあれだけ慟哭したシーンと、貴湖が居酒屋で「生きたい」と泣いたシーンと、主税が我を忘れて貴湖を殴ったシーン。

それぞれがそれぞれの生い立ちと、それにまつわる背景を抱えていて、苦しみは普遍的じゃない。アンさんは貴湖のことを分かろうとしていたし、貴湖だってアンさんのことを理解したいと願っていたはずだけど、それは主税だって同じだったんだと思う。やり方、表現の仕方が良くなかったというだけで、きっとみんな幸せに生きていきたいと思うのは一緒だった。

主税がアンさんの母親にしたことは立派なアウティングであり、許されてはいけないこと。世間的には不倫や貴湖への暴力ばかりが罪として捉えられると思うけど、アウティングのせいで一人の命が亡くなったことが映画内でもしっかり描写されている点は、無視したくない。

志尊くんが花ちゃんのことを「報われてほしい」と言っていたのがずっと忘れられなくて、それは何かしらわかりやすい賞とかを彼女に与えてほしいみたいな即物的なことではないはずだけど、でも、私も同じ意見だと思った。彼女はすでに素晴らしい女優だし、世間的にもそう捉えられているけど、もっと、もっと、と思う。この映画にかけた、彼女の時間と労力は適切に報われているんだろうか?
北村有

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