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52ヘルツのクジラたちのプライのレビュー・感想・評価

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
2.9
東京から田舎へ引っ越しきた女性が、親から虐待を受けている少年と出会い、かつて同じく虐待を受けていた過去と命の恩人に想いを馳せたことから始まる、苦境に陥っている者たちを巡るヒューマン・ドラマ。

志尊淳さん演じる安吾から杉咲花さん演じる瑚子へ。瑚子から桑名桃李さん演じる少年へ。そして、観客である私たちに向け、生きることの肯定感を受け取れる作品。杉咲花さん・宮沢氷魚さん・志尊淳さん・子役の桑名桃李さんが演技が光って物語に彩りを与える一方、間の悪い脚本に踊らされたことで出しゃばりな見え方になってしまった俳優たちも…。さらには、主人公が田舎へ引っ越した際には街中で噂話が流れるのに、児童が虐待を受けてる疑惑は噂話として全く流れないという謎のチグハグさがある。

俳優陣の演技が光る。杉咲花さんは直近の『市子』の影響もあるけど、凄惨な過去を持つ人物が板に付いてる。宮沢氷魚さんは好青年に見える顔立ちと雰囲気が機能し、表面上と本心で見せるギャップが冴えており、心情表現の幅を堪能できて、お得感がある。何よりも発見だったのは志尊淳さん。イケメンな好青年のイメージが強かったけど、本作では複雑な役を演じて随分と老練さが光った。顎髭の影響かもしれないが実年齢より上に見えたことに加え、精神年齢の高さを感じさせる立ち振る舞いが、劇中の後半で語られる過去の苦労が急速に大人へさせてしまったのではないかと思わせる。凄く大人な志尊淳さんだった。志尊淳さんの他にも、新たな発見は西野七瀬さん。直接的な暴力描写はないけど、息子を虐待するシングルマザーが板に付いており、今後の演技の幅を感じさせる。杉咲さんと宮沢さんからは往年のパワーを感じ、志尊淳さんと西野さんからは新たな発見を得られた。

俳優陣の演技が光る中、間の悪い脚本の影響で不遇な見え方になった俳優たちがチラホラいる。主人公の友人役である小野花梨さん、存在がよく分からなかった地元民役の金子大地さん、金子さんの母役である倍賞美津子さんの3名は不遇だった。
小野さんは主人公の友人役なのに、身が引き締まるシビアなシーンで不意打ち気味にフラッと初登場してしまい、そのまま観客に向けて自分が何者なのかを説明口調で一気に話してしまい、ファースト・インプレッションが悪過ぎた。そのまま主人公と行動を共にするけど、特に代わりが効かない役割を担っていない。不意打ち気味に初登場したことも合わさって、何かしら感情的に訴えるシーンがあっても全く響かない上に出しゃばりに映っている。杉咲さん1人だけで十分だし、そもそも杉咲さんと志尊さんの関係性がメインだから無くても物語に支障はない。小野さんの演技は良いのに不遇だ…。
地元民役の金子さんも不遇。出番が5分足らずのシーンを数回程度という短尺にも関わらず、感情的な演技を要求されている。小野さんと同様に出しゃばり感がある。また、用意されたセリフの中で、桑名さん演じる少年の話と明らかに物語に関係性のない"とり天"の話をゴチャ混ぜかつ説明口調で言わされてるのは歪過ぎて不憫極まりなかった。とり天の話は明らかに不要。あまりにも不遇だ…。
金子さんの母役を務めた倍賞さんも不遇。小野さん並みに不意打ち気味にフラッと初登場し、いきなり初対面の人に説教を始めてしまい、小野さんと金子さん以上に出しゃばりとなってしまった。せめて、息子役の金子さんと何回か一緒に登場して一言二言ぐらい喋っていれば、まだマシだった。
小野さん・金子さん・賠償さんは総じて悪い演技をしてないのに、不意打ちで初登場させられたり、あまり出番がないのに感情的なシーンを任されて出しゃばりに見えてしまったりと、何とも間の悪い物語の構成に踊らされていた。何と不遇…。

世界観にも一箇所だけツッコミを入れたい。それは、主人公の移住先である田舎の地元民たちの噂話に違和感があること。まず、開幕後に主人公が引っ越してきたことで、主人公に関する根も葉もない噂話が流れてしまうのは、田舎の暇人たちによる特有の習性として違和感はない。だが、桑名さん演じる少年が虐待を受けている件について、なぜ噂や憶測が流れないのか首を傾げる。明らかに髪がボサボサで伸び過ぎだし、着ているTシャツも明らかに使い古されてるし、そんな少年が街中を歩いたり近所の方が見かけたりしたら最低でも1人は不審に思うはずだろう。加えて、学校に行ってない点も、田舎となれば噂話の恰好の対象である。なのに、児童虐待の噂や疑惑が全く取り上げられない。主人公が移住する前から起きているのに…。そして、虐待を行っている母親は何事もないかのように飲食店に勤め、田舎在住の常連客と談笑している。これには田舎出身の私的には「えぇーっ!?」とマスオさんに成らざるを得ない(笑)原作小説で補完するのが良いのかしら。


⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐
演出・映像   :⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観  :⭐⭐⭐
星の総数    :計11個
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