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コンクリート・ユートピアのRのネタバレレビュー・内容・結末

コンクリート・ユートピア(2021年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

映画館で友人1人と。

2024年の韓国の作品。

監督は「隠された時間」のオム・テファ。

あらすじ

未曾有の大災害によって、一瞬で廃墟と化したソウル。唯一崩落しなかったマンションは生存者たちで溢れかえっていた。そんな無法地帯となったマンション内ではトラブルが立て続きに起こり、危機を感じた住人たちは主導者を立て、居住者以外を追放し、独自の「ユートピア」を築き上げることになったのだが、住民代表となった902号室の職業不明の冴えない男、ヨンタク(イ・ビョンホン「スンブ:2人の棋士」)は権力者として君臨したことで、次第に狂気を露わにしていく!

昨年の今頃も「非常宣言」という韓国の傑作が公開されていて、年の初めにこういういい感じの韓国映画が公開される流れができているのかな?と思いつつ、ずっと気になっていて、ようやく友だちと2人で観てきました。

お話はあらすじの通り、所謂「ディストピアもの」とカテゴライズできる内容となっている。冒頭、韓国のアパートの過去から近代に移り変わり、現代へ…と思ったら、画面の奥の方からゴゴゴゴ…と地面が盛り上がってくる描写!!いや、大災害の域超えとるやんけ!!

そんな大怪獣襲来もかくやの(つか、大災害の跡地が完全に「ゴジラ−1.0」のビーム吐いた後みたいになっちゃってる)大災害によってソウル全域が崩壊しちゃうんだけど、そもそもソウルだけじゃなくて、ここまでの災害だと世界全体にまで影響を及ぼすんじゃないの?とか結局救助隊はどうなったの?とかそういうツッコミは野暮。結局のところ最後までソウル以外の被害はわからないし、救助隊もやっては来ない。

そんな大災害に見舞われ、孤立無縁「ソウル以外全部壊滅」状態になった都市部の中で唯一、「建物」として生き残れたのがメインの舞台である「皇宮(ファングン)マンション」。

そして、このマンションに住まう登場人物を演じるキャスト陣が良い!

メインを張るのはやっぱりこの人イ・ビョンホン!そういえば昨年の「非常宣言」でもソ・ガンホとダブルキャストでメイン張ってたなぁと思うと相変わらず実力派俳優としての演じ分けに感服するくらい今作で演じるヨンタクはすごい。登場時は自らの生命を投げ出してマンションの一室の火災を止めようと躍起になって活躍したことで住人代表として祭上げられることになるんだけど、初めは割と控えめで、ただリーダーとしてやることはちゃんとやる良き指導者なんだけど、段々と本性が露わになってくると極めて凶暴な一面を見せ始める、まさに怪演。

見た目も、それまでの演じた役だと比較的髪を下ろしている役が多いイメージだったんだけど、だからこそ男前に見えたその顔相が今作ではあまり男前が前に出ないようにか、前髪を上げた短髪風になっていることで、元々の顔の怖さが前面に出ていて、すごく何考えてるのかわからない感じが不気味。

特に中盤、物資をあさりに行って大きな収穫を上げた後、「皇宮祭」と銘打つ大宴会を開催して、その中で他の住民にリクエストされて韓国の歌手ユ・スイルが歌う「アパート」という、まさに今作のテーマソングとして相応しい歌を明朗に歌うシーンがあるんだけど、その後のシーンで、遂にヨンタクの正体が明かされて、彼がどんな人物か、そしてそのために何を犯したのかがわかった後、それを思い出しながらカメラを真正面から見つめ、うっとりと歌い上げるシーンは個人的に今作の白眉と言えるゾッとするシーンとなっていた。

また、そんなヨンタクに防犯隊長として従事することになる公務員のミンソンは「マーベルズ」でMCUデビューした記憶も新しいパク・ソジュン。こちらも相変わらず超絶イケメンではあるんだけど、どこか朴訥として感じもあって、あまり主張はせずに流されるまま自分と奥さんのミョンファ(パク・ボヨン「君の結婚式」)だけは守り通す保守的な奴なんだけど、段々権力を強めるヨンタクにマンションを追い出されることを恐れて、どんどん傾倒していった後は、闇堕ちして同じ住民でも「ゴキブリ」を匿っているのがわかったら傷つけることも厭わない冷酷フェイスを見せてくるのがまた怖い!!元々切長の目でクールイケメンなのでこういう闇堕ち演技見せると上手いよなぁ。

他にも上述のパク・ボヨン(完全に今田美桜にしか見えない)演じるミョンファのどんどん狂気性を増す住人たちの中で唯一正気を保つ感じだったり、薄情に見えて、実は誰よりも優しいメガネのドギュン(キム・ドユン「ソウル怪談」)だったり、こういうディストピアもので1人はいる場を取り仕切る婦人会長役のキム・ソニョン(「ソウルに帰る」)だったりと脇に至るまで「いい顔」揃い。

ちょい役だけど、最初の住人会議で茶々入れてくる奴とかいい味出してたなぁ笑。

ただ、個人的には中盤から登場するキーパーソンのヨンタクと同じフロアの住人だった女子高生ヘウォンを演じたパク・ジフがめちゃんこ可愛かった!!見た目は薄紫色に髪を染めた不良少女って感じなんだけど、全盛期の平野綾みたいなアイドル的なルックで心が持ってかれる。だからこそ、終盤の雑な退場はちょっと残念だったな。

そんな感じでヨンタクを筆頭になかなか曲者揃いの住人たちなんだけど、大災害が起こった直後は近くの崩壊したマンションから避難してきた難民を成り行き上、受け入れることになるんだけど、傷害や放火などのトラブルが相次いだことで、結託してヨンタクを住民代表にしてマンションの住民以外は追い出すことに。当然、他の難民は暴徒化するんだけど、そこをなんとか鉄壁の守りで無理やり追い出した後は「入居規則」を設けて、独自の「ユートピア」を作り上げる!!ここら辺のシステムが割りかし良くできてて、「防犯グループ」「医療グループ」など住人それぞれがスキルを活かした活動でその働きに応じて「配給量」を決める、完全に「社会」を形成しているのがすごい。

ただ「ユートピア」は外面だけで、マンションの外には追い出された、荒れ果てて極寒となったソウルで寒さに耐え切れなかった避難民の凍死体がゴロゴロ転がっているし、どんどんカリスマ性を増すヨンタクを半ば盲信的に奉る住人たちは、まるで「カルト集団」のそれ。

特に、中盤くらいからマンション以外の難民を「ゴキブリ」と呼んで、そのゴキブリを匿う住人たちを糾弾し、部屋のドアに赤いペンキで「裏切り者」の烙印をつけるところなんか、すげぇ「選民思考」みたいなものすら感じて薄気味悪い。で、そのあと匿った住人たちを住人たちの面前に吊し上げて正座させて反省声明を200回繰り返し言わせるところなんか、やっぱどうしたって北朝鮮っぽさを彷彿とさせて気持ち悪かった。

ただ、そんな「偽りの楽園」は長くは続かない。ミョンファとヘウォンによってヨンタクの化けの皮は剥がされ、それまでの不満が一気に爆発したこともあり、住人たちが喧騒と混乱渦巻く中、ここぞとばかりに難民たちが食糧よこせ!と大挙して押し寄せたことで楽園は崩壊。

あれだけ結託して社会を形成していた住人たちも難民と入り乱れることでだれが誰だかわからない状況下でもみくちゃになってるのを見るとつくづく人間って醜いなぁ。

ただ、それでもヨンタクだけはとっくに住人たちに自分の正体が明かされているのにも関わらず、1人指揮をとって、序盤と同じく自らの身を投げ打ってまでマンションを守ろうとする姿が切ない。

この人も結局のところ、やったことは正しくない行動もあったけど、それもこれもただとうの昔に捨てられた「家族」の代わりに「住人」たちを守るため、そしてこの災害に見舞われた状況下になって初めて見つけた「自分の居場所」を守り通すため頑張ってただけだと思うと本当にその最期は哀しすぎる。

今作における「マンション」をそのまま「領土問題」として置き換えて見ると、全編通して皮肉が効いて、つき放した結末を遂げる本作なんだけど、そんな冷たい世界でも「他者」がいて「寄り添い、助け合う心」があれば「社会」はまた生まれ、形成されるということがわかるラストは「それでも人は捨てたもんじゃないよ」と最後はこちらに訴えかけてくるようで救いのあるラストにはなっていたと思う。

なんつーか、思ってたよりかはエンタメ度は低かったけど、こう胸にズシンとくるような余韻を残す作品で滑り込みで本当に観て良かったと思える作品でした。
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