グラビティボルト

FARANG/ファランのグラビティボルトのレビュー・感想・評価

FARANG/ファラン(2023年製作の映画)
3.9
殴る、蹴る、ぶっ殺す!という、アクション映画の大事な3ポイントを万力で押さえたような映画。

100分中50分ぐらいまではムショ上がりの主人公がヤクザと戦う動機付けに尺を割いていて、アクション映画としてはスローな気がする。
だが、ヤクザ経営のパーティ会場に乗り込んで以降一気にギアが掛かる残虐な殺陣が見事。
マ・ドンソクの「犯罪都市」シリーズでさえ陥っている、「格闘アクションが多すぎてどこで興奮すれば良いかわからない」現象を、主人公のムエタイスキルが存分に発揮出来ない(八百長試合など)50分で回避してるのが気持ち良い。
これがあるから、パーティ会場であの鉈が首に入った瞬間に映画の血圧が上がる。
いつも通りに繰り出した右ストレートなんだけど、その手に掴んでいた凶器が殺し合いという非日常を引き寄せてしまう。
この瞬間の主演 ナシム・シ・アフメドの目の見開きっぷりと鏡のように機能する鉈の表面の演出がベスト。
人が道徳の一線を超える瞬間が即物的に撮れてる。


終盤のエレベーターでの地獄絵図は今年ベスト級か?
ボタン付近で血を吹いてる悪党の思わず恐怖する目線を入れてるので、妙に暴力を客観視する目線が入っているのが興味深い。
メロドラマ的なオチは別に大した事はないが、恋愛感情の拗れという動機と実際に巻き起こったバイオレンスの釣り合いの悪さ、居心地の悪さと蛇口を捻ったみたいに血を流しながら娘と帰る主人公のショットには、ここまで殺ればもう立派!と感動してしまった。