つまらない演劇に激怒した観客が自らの手で面白い演劇に変えていこうとするお話
変なシュールギャグ映画ばかり作ってるカンタン・デュピュー監督の最新作。本作は荒唐無稽なシュールギャグとは一線を画し、観客と演者の両者の安全が保障されることによってはじめて成り立つ演劇のぶち壊そうとする、かなりシュールでありつつも現実的で恐ろしい映画だった。
公演中、主人公であるヤニックが突然立ち上がり「この演劇はつまらない」と演者に向かって言い放つオープニングから最高。ここではヤニックは観客側の視点に立っており、観客である男が演者に好き放題文句を言い放つという構図になっている。その後色々あってヤニックは舞台に上がり、観客から貰ったパソコンを使って脚本を執筆しようとするが、その際のヤニックがタバコを吸いながら頭を悩ませて文章を打ち込む動作と、演者や観客からの冷めた目線を並列して映すのが面白い。一瞬だけ舞台を俯瞰するようなカットが挟まり、この映画を観ている観客自身が脚本を執筆するヤニックを冷めた目線で眺めていることを突きつける。この時ヤニックは安全圏であったはずの観客側から舞台に立って観客の視線に晒される演者側に移行しており、そのようにして観客と演者の関係性を明らかにしようとする過程がなかなか面白い。
危うさを孕んだ演劇というシステムが一度の衝撃により崩壊する過程と、演劇が再構築されるまでをカンタン・デュピュー監督らしいどこか可笑しくシュールな会話とシチュエーションを織り交ぜて描かれている。面白かった！
