三樹夫

アイアンクローの三樹夫のレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
3.5
プロレス一家のフォン・エリック兄弟たちに起こった悲劇の青春映画という撮られ方をしている。劇中では5歳で死んでしまった長男を含めて5人兄弟となっているが、実際には6人兄弟ではあるのだが六男も自殺しており、次男のケビン以外の兄弟は劇中でも実際でも皆若くして死んでいる。
三男デビッドが日本で死んでしまう時点で残り1時間となっており、ここまでこの映画は何をしていたかというと兄弟たちの青春映画というような撮り方をしており、いかに兄弟たちは仲が良いかという描写が豊富にある。この映画の主役はアメリカの江口洋介みたいな風貌の次男ケビンであり、親父であるフリッツは最初の1時間はまだ大人しい(それでも絶対この親父碌な奴じゃないだろうな感はあるが)。家族で飯食ってるシーンで母親はせっせと大量の料理を作り男たちは食うだけという観てるこっちが色々察する典型的なやつにマッチョ主義も混ざっていることで、どうにもこうにも逃げ場がなくなっていくというか自分で自分を追い込んでいく形になる。クソ親父が悪いのはそうなのだが、兄弟も母親もみな男はこう女はこうみたいな典型的な家感にマッチョ主義を自身の中にインストールしているのが悲劇の一因とも思える。そんな家なので次男ケビンは長男としての役割を持たざるを得ず、ひたすらケビンが可哀そうになってくる。
ラスト1時間は悲劇の連続でクソ親父の世界チャンピョンのプロレスラーを出すんやという最早妄執から、円盤投げのケリーも音楽好きのマイクもプロレスラーとなるがそのことで全く碌なことはないという、このクソ親父もう黙っててくれと切に思う残りの1時間。『葛城事件』と同じくこのクソ親父が死ねば万事うまくいくよなと思えるクソ親父で、クソ親父っぷりはどんどん増大していきプロレス団体を売る売らないというところがクソっぷりのピークではあるが、分かりやすいクソ親父っぷりというよりかは真綿で首を絞めるようなじっとり系のクソ親父っぷり描写となっている。クソ親父を演じているのが『マインドハンター』で絶対共和党支持者だろみたいな角刈りオヤジを演じていたホルト・マッキャラニーなので見た目からしてクソ親父っぷりの説得力がある。この映画は役者に関しては見た目から入る感じで、ケリーが連れてきたタニヤなんか絶対セックスだけの関係やんというのが見て一発で分かる。

この映画は130分あるがそんないるかと思う。なんで130分になるかというと一つ一つがいちいち長いためであり、良く言えば丹念な描写といえるのかもしれないが長い。ケリーが天国で兄弟たちに再会という、これはケビンのせめてこうあって欲しいという願望ではあるが、これをわざわざ映像にする必要あるのか。
この監督に限らず、絶対もっと短くていいだろという作品の監督に関して最近思うのは、いち観客として他の人が作った映画観てる時に長いなと思ったことないのだろうか。映画は長ければ長い程良いみたいなことを考えているのなら何も言うことはないが、いざ自分が監督した作品となるとあれもこれもで長くなってしまうのかな。
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