ヒラツカ

アイアンクローのヒラツカのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
3.5
フォン・ファミリーの悲劇を描いた伝記。スポーツを観る趣味がないにも関わらず、実はプロレスはわりと好きだが、わざわざ会場に赴いたり地上波以外で観戦するほどではない。そして、その歴史や系譜などにはぜんぜん興味がなく、したがってこの家族のことも知らなかった。映画の中に登場したレスラーでも、シークやブロディはなんとなく知ってたものの、リック・フレアーは知らなかった、という程度。ただ、レスラー映画でいうと、それこそダーレン・アロノフスキーの『レスラー』が、オールタイムベストに入るくらいに好きで、主人公と同化するミッキー・ロークのかっこ悪くてかっこ良い姿に、観ると必ず落涙させられるのだ。
なので、本作もちゃんとハンカチを忘れずに劇場に行ったけれど、この話、感動ストーリーではなく、ホラーでした。マッチョな家父長制、いや、それだけでは説明のつかないような、父フリッツ・フォン・エリックの何かが欠落した異常性と、息子たちに取り憑いた「呪い」の恐ろしさ。何が怖いって、それまでリングに上がることを避けてきたマイクが、デビッドが死んだ次のシーンで、あっさりとトレーニングを始めてるのだ。その、カルト集団の洗脳活動にも通じるような、思考停止の閉じた空間が気持ち悪い。格闘技って、幾多のスポーツの中でも、とくに身体性に特化したものであり、そこでは個人の意見やロジカルな答えよりも、そういう「呪い」が優先される傾向にあるんじゃないかな。でもそれって人間の本質を鋭く捉えたものだから、人々を興奮させることもできるし、「興行」というものが成り立つわけだ。だからこそボクシングのドラマは名作が多いし、角界を舞台にしたドラマ『サンクチュアリ』も面白かった。
それにしても、ザック・エフロン、いつのまにこんな体になったんだ。僕は学園ミュージカルみたいなのものを定期的に観たくなっちゃう癖があり、『ハイスクール・ミュージカル』が好きだったんだが、当時とは別人のフォルムになり、出てきたときはさすがに笑っちゃった。でもこの形態になった彼は、マーク・ウォルバーグとかチャニング・テイタムにも通じるような、いかにも「筋肉バカ」に見えるし、それはいつも茫洋としているキャラクターにぴったりだった。また、なんといっても親父を演じたホルト・マッキャラニーという方の面構えとサイコな立ち居振る舞いが素晴らしい。『ファイト・クラブ』でタイラーの腹心を演じてた人ですよね、『マインドハンター』でも要役をやってるらしいし観なきゃ。