ぶみ

サイレントラブのぶみのネタバレレビュー・内容・結末

サイレントラブ(2024年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

そして、愛は動き出す。

内田英治監督、原案、共同脚本、山田涼介、浜辺美波主演によるドラマ。
声を発さなくなった青年と、視力を失った音大生の恋愛模様を描く。
主人公となる青年・沢田蒼を山田、音大生・甚内美夏を浜辺、蒼の職場の先輩を古田新太、音大の講師・北村悠真を野村周平、蒼の親友・中野圭介を吉村界人、裏カジノのスタッフをSWAYが演じているほか、登場シーンは少ないものの、中島歩、円井わん、辰巳琢郎等が登場。
物語は、ある出来事をきっかけに声を発さなくなり、音大で清掃員として働く蒼と、交通事故で視力を失うもピアニストを目指す美夏という対照的な二人が、ピアノとガムランボールを通じて惹かれ合う様が中心となり、この点に関しては予告編で示されているとおり。
ただ、蒼が、冷静に考えると仕事そっちのけで、ややもするとストーカーとも言える行動を取り出すのは、まだ我慢できたものの、途中クズ男である北村が登場し、その北村が大学で時間を潰すシークエンスで、独り言により全てを説明してくれたあたりから、邦画の悪いところが顔を出し始め、徐々に現実離れしていくと同時に、物語を動かしていくのが、その北村頼みになってしまったのは脚本の弱さか。
そこからは、もう全てを描くには尺が足りないせいか、予定調和の連続に始まり、結局、蒼が声を失ったのはわかるが、表情まで失っている理由がわからない、中盤では、結構な距離を走って、わざわざ道路の真ん中で嗚咽したり、挙げ句の果てには、古田新太が昭和の青春ドラマよろしく、時代錯誤な台詞を叫ぶという、見ているこちらが恥ずかしくなるような展開の連続となってしまったのは、非常に残念。
反面、清掃会社の詰所に、斉藤由貴のポスターが貼ってあったり、古田演じる先輩が小泉今日子の「The Stardust Memory」を聴いていたのは、端的にそのキャラクターや、事務所の雰囲気を表していてニヤリとさせられたところ。
また、クルマ好きの視点からすると、美夏は裕福な家庭という設定なのだが、彼女の送迎に使われていたのが、もう30年以上も前のモデルとなる黒色の三菱・デボネアVであり、その個体の綺麗さに驚いたのと同時に、そこはかとない財閥感を出すには、この上ないクルマだったかなと感じた次第。
先日観た、木村聡志監督『違う惑星の変な恋人』が、現実からファンタジーへの境界線ギリギリで踏みとどまっていたのに対し、本作品は、大きく飛び越えてしまっているのが対照的であり、後半過激な描写があるものの、基本静かな作風ながら、肝心なところまで静かにしてしまったため、そこに至る過程が全く描かれておらず、キャストは決して悪くないのだが、現実離れした出来事の上っ面のみを辿ったところで心が動くことはなく、美しい映像と久石譲によるピアノの音色で彩られた作品としての質感は低くないのだが、結局、浜辺の血まみれの顔と、デボネアVを堪能するしかなかった一作。

あいつは全部持ってたから。
ぶみ

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