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サイレントラブのEPATAYのレビュー・感想・評価

サイレントラブ(2024年製作の映画)
1.0
視力を失った女性と声を失った男性のラブストーリーを通して、“見えるのに見えていない”社会を描く.....はずが監督が1番見えていない。いや、見えていないならまだしも、見えているのに無視をしているからたちが悪い。たぶん今年ワースト

今作がティーン世代を意識して作られているは明らかだ。社会性のあるテーマを扱っていたり、わりと容赦のない場面があったりするが、中身はキラキラ映画。別にそれ自体は悪いことではないのだが、そういったことを踏まえて考えたとき、それはどうなのよと思うところが多々ある。

まず第一に説明過多。誰がなにをしてどんな状況になって、この人はこんなことを思っているということを親切丁寧に全部説明してくれる。後半のある展開をわざわざもう一回繰り返すところで「嘘だろ......勘弁してくれよ......」ってなった。

ただ問題はそこじゃなくて、そういった“エモ”に関わるところは説明過多なのに、その枝葉となる主人公二人が持つ障害の部分に関しては全然説明しないのである。例えば浜辺美波が横断歩道で人とぶつかったことで平衡感覚がおかしくなってしまうシーン。

あそこを、今はまだ理解のない人が見たとして、なぜちょっとぶつかっただけであんなにパニックになっているのか意味わからないと思う。その手前で同級生が手を貸そうとして怒られるシーンも単に嫌味な奴にしか見えない。

例えば、横断歩道の信号が点滅したときに手を引っ張られるとか、急に雨が降ってきたから屋根のある場所まで連れて行ってあげたことで平衡感覚を失うとかもできるわけである。他にも階段でいきなり声をかけられる怖さとか色々あるはず。

無関心な人々、悪意を持った視線を向ける人々は描くのに、善意ゆえの迷惑を描かないのは全くもって不誠実である。これを製作者が“わかっていない”だけならまだいいが、この監督は障害と関係のないところでそういった場面を用意している。つまり、【あえて】描かないのである。

コミュニケーション不和の二人にラブストーリーがやりたいから主人公に障害を持たせよう。ラストにエモい展開をするために階級社会要素も入れようみたいに、あらゆることが話の展開のギミックでしかなくて、キャラクターの発言や行動に生きている感じが全くない。

障害を持つ人がおかれている状況というのをよくわかっていてそれを描けてもいるのに、悲劇に向かうためのギミックにしか使っていないというのは、当事者を“無視”していることと同じであり、『ミッドナイトスワン』の頃からなにも変わっていないなと感じた。
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