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異人たちのMHRのネタバレレビュー・内容・結末

異人たち(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

良い映画だった。質が良くて好きな映画。一緒に行った友達がすごく泣いてて、彼女が泣いているところを見たことがなかったから、とてもびっくりした。いつも大抵私が泣いている。私は少し泣いたのだけど、それは全然違うところだった。面白かった。原題のつけ方がすごくいいから、どうしてもそちらに傾いた感想になる。そうである、ということ。

単純に演技がいい仕事だった。わりとずっと最初から「ポールメスカルはなんでこんなずっと『ここにいない人』みたいな表現が上手いんだろう。きっともうここにはいない」と思っていたので、特に驚くこともなく静かに受け入れられた。そういう段取りをよく踏んでいたと思う。明示的であったことが、はっきり示されて、明かし方もよかった。ラストシーンも良かった。光が現れていく。明滅する。私たちはひとりだから、近くに寄り添うことができる。人恋しくていいんだよ、という映画でもあったと思う。あれはあれでいい。受け入れたりいなくなったりしなくていい。ゴーストものといえばそうなんだけど、中でもとびきり好きな作品・描き方。ポールメスカルの存在感が本当に良かった。そして当然、アンドリュースコットは素晴らしい仕事をしていた。主演男優賞も頷ける。さまざまな俳優と演技があって、密度の高い画面の中でひたすら個として存在していた。彼は私の母がすきで、それは本当によくわかる。

画面も良かった。あの動かし方、あの編集、あの音の入れ方、フィルター。私は片目が悪くて、集中しているとどうしてもぶれて見えることがあるのだけれど、ラストシーンで「これはこれで正解なのかもしれない」という気になっていた。フィルターが重なる、日常にセロハンが貼られていくシーンが多かったし、ぶれて見えるものを本当に見た。今ここにいたい私とここにいたいあなたが本当ということだよ、というよいラスト。あれを言葉で語ると途端にジャンルが変わってしまうから、ああいったふうに描いたのがうまかったと思う。うまいやりかただった。切り口が良かった。

単純にもっと英語ができればよかった。きっとその方がずっと良い映画だと思うから。

それはそれとして、ある時代を経験した人の話ではあった。つまり私がわからなかった。良い映画だと分かるが、もっととてつもない喚起力を持った映画だとも思う。(私にとってはaftersunがそうだった。) エイズの話、いじめ、繰り返される「時代は変わった」、私はそういったものを知識としては知っているけれど、肌では知らない。肌で知っている人が見ると、もっとたいへんな映画なのかもしれない。私との距離の問題。例えば、私は劇中何回か「これは30年先の私かも」と思ったけどすぐに否定した。時代が違う。良い映画だけど私の映画(そんなものはないという前提の上で)じゃない。私は「新しい時代」のほうで、なんなら劇中のどのキャラクターより「新しい時代」で育っている。クィアとゲイの言葉の感覚、で世代差が表されるシーンがあったが、私が話したらもっと世代差を表せると思う。それくらい違う。遠い。刻一刻と時代の変化は感じるけれど、ああ違うんだなあと改めて思った。母との対話、父との対話のシーンがすごい。1番印象的なシーンの一つ。父との対話で泣いたが、これはaftersunの涙ではなかった。母とのシーンは「いつから」が耐えられなかった。これから先にありそうだし、あるだろう。他にもいろいろ思ったけど、うまく言えない。映画見てるときが1番考えてる気がする。劇場出た瞬間抜けてく。今いじめの話を思い出した。すごくひどい。としかわからない、今。空気感を想像するしかなくて、ただ父の態度でさらにしんどくなったのはわかった。私泣くな、と思ったところでアダムも泣いてて、うわぁとなってしまった。

結局1人で生きていく人の話、として好きだった。寄り添うこともできるし、実際よりそうが、ゆうて1人の話。ただその「1人」を作る要因が私とはかけ離れているから、安易に自分ごととは思わなかった。そもそも言う気ない。ずっと良い映画だったし、印象的なカットが多い。良いエレベーター・部屋。友達との思い出も良かったし、何よりこういう映画を映画館で見られて良かった。いい映画見ると自分の中のテンポが戻るというか、モデラートになる気がする。少しゆっくりかもしれない。目を閉じて眠っても構わないのに、と劇中自然と思った。つまらないとかではなく。映画のリズムに適応していく感覚。黄金色と森と空とレイヴ、時折硬い演出があってよかった。とても分かりやすくひとつの話をしていて、振り返ると沢山のギミックがあって、こういうことが好き
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