hikari

異人たちのhikariのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
4.5
「ゲイであることと、寂しいということは全く別の問題だよ」

この映画のすべてが詰まった一言で、映画館を出て帰路に着いてからもずっとこの言葉が頭にこびりついている。それぞれが抱える孤独や寂しさに、まっすぐに、真摯に向き合う物語の強さに、圧倒された2時間だった。

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我が最推しの俳優のひとり、アンドリュー・スコット主演の映画が上映されると聞いてから、ワクワクしながら公開を待ち侘びていた。ゲイであることをオープンにしている彼がクィアの役を演じると知り、絶対に良い作品になるだろうと期待していました。

ロンドンのタワマンに暮らす脚本家のアダムは、子供の頃に交通事故で亡くなった両親との思い出を物語にしてみようと、過去を遡っていく。昔住んでいた家に行くと、そこで死んだはずの両親と再会して…というのがあらすじ。

ゲイであるアダム(40代)と、“クィア”のハリー(20代)、アダムの両親(生きていたら70代前後?)のそれぞれの関係性や会話から、ゲイ、そしてクィアを巡る時代や社会の変遷が垣間見える。

男性同士の性交渉がエイズ=死を意味した時代を生きてきたため、長い間性交渉を避けてきたアダム、セクシュアルマイノリティを侮辱する意図で使われていた「クィア」という言葉をポジティブに使うハリー、そして「人生の喜びは結婚と子どもだ、だからそれができないゲイは一生孤独で可哀想な人たちなのだ」という偏見があった世代の両親。この3世代それぞれが持つクィアへの価値観や変化が、とても丁寧に、緻密に描かれている。

「今はゲイでも結婚できるし、子どもも持てるよ」と答えるアダムに、訝しげな表情を見せる母親の顔を見て、ああ、時代は変わったのだと感じると同時に、どんなに時代が変わっても、変わらない孤独と寂しさがあることを、この映画は教えてくれる。

長年にわたってアダムの胸につかえていた大きなしこりが、両親との再会、そしてハリーとの交流を通じて少しずつ溶け出した頃、アダムは気づくのだ。この寂しさは、この孤独は、自分だけのものだと思っていた。だけど父親も、母親も、そしてクィアとしてありのままに生きているように見えたハリーですらも、人には見せない孤独があったのだと。それは、クィアだろうが、クィアでなかろうが、みんなが等しく抱えている。その寂しさや孤独を、誰かと共有し合うことが、いかに難しく、尊いのかと。

これはアダムの物語であり、そしてあなたの、わたしの、寂しさについての物語なのだろう。

この映画をアンドリュー・スコットが演じてくれて本当によかった。ただでさえ大きなスクリーンでアンドリューの顔面を拝めただけでも神に感謝するほどでした。今のところ2024年ベスト映画です。
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