チッコーネ

異人たちのチッコーネのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.2
なぜか2組しか住んでいないタワマン…、内部に渦巻く静寂と孤独がうらやましくて、ゾクゾク。
また父と息子の直截かつ繊細な会話場面には、過去のゲイ映画にない深化があった(FGH、PSBなど80年代のゲイ系エレポップも効果的に採用されている)。

とは言え「愛と家族が絶対」という物語の大前提には「やっぱりこうか」と溜息。
そもそも原作があり、さらに映画として広い共感を得るため、当然の選択なのだろうが。
人との交流を避け、非現実世界へ足を踏み入れていく主人公が「過去の清算」に絡めとられているという設定自体が限定的、その点に失望した。

予定調和へ「否」を突き付けることが可能なアンドリュー・スコットの透徹な存在感も、泣き所を強調された本作の演出ではあまり活きていない。
しかし『パレードへようこそ』や『ぼくたちのチーム』ではオブザーバーの役どころだった彼が、カミングアウト済みゲイ俳優としての代表作にようやく恵まれたことは確か。