平田一

サンクスギビングの平田一のレビュー・感想・評価

サンクスギビング(2023年製作の映画)
4.2
「怒り」が劇中の凶行のきっかけとなるオープニング。セールに沸き立ち暴徒のようにスーパーマーケットへ群がり、自分の都合しか考えない人間たちのおぞましさ。あの空気を表現させるのスゴく上手くて怖いうえ、種明かしで意味が変わる冒頭の「息遣い」。どれもこれもロス監督の意図をメチャクチャ感じさせ、単なる殺人鬼大暴れ系とはひと味違ってます(勿論殺人鬼大暴れ映画好きにも痺れるかと)。

しかも代表作『ホステル』や『グリーン・インフェルノ』同様にシステムや視野狭窄の人間への痛烈批判、殺人鬼を助長させたのが“アレ”というカウンター…見れば見るほど作りは巧みで、結構面白かったです!

あとこの映画自体、どうして犯人が殺人鬼へ至ったのかという動機も並行して描いているのが絶妙で良かったです。犯人の予想自体は分で分かると思いますが、善良な人間が殺人鬼へ至るのは無神経で無遠慮で想像力が欠如している第三者にして加害者が招いてしまうことだという、ソーシャルジャスティスウォリアーへの皮肉のようでなかなかです。だからカフェの粗暴な口調でスゴく下品な従業員がある意味雑に惨殺されるシーンは非常に巧妙で、見世物じゃなく復讐だという手触りに見えました。

もし『グラインドハウス』内のフェイク予告みたいなものを期待すると、予告を見て思う人もいるかもです。ですがこれは個人的にワインスタインの性的加害やフラッシュバックに苦しむ人を苦しめたくないロス監督の配慮や意向に思います。多分それはオープニング直後に流れる“ある動画”。そこにきっと伝えたいことがあると思ってます。だってそれは劇中では描かれていない人たち(冒頭の惨劇で苦しんでいる被害者たち)もその動画を見たら即座にフラッシュバックするのでは?
平田一

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