ムテモン

サイラー ナラシムハー・レッディ 偉大なる反逆者のムテモンのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

当然のように3時間ある。しかし、これでも削ったんだろうなというのが節々に伝わった。そのくらい詰め込まれてて細かい描写を見逃すと誰が誰だかわからなくなる。ダイジェストの連続。

インド映画を観る時の個人的な楽しみは幾つかあるけど、そのひとつに作り手としてたとえ思いついたとしても(ギャグに見ちゃうことを恐れて)選択しないであろう描写を描き切っちゃう点がある。それが僕にとっては『RRR』では肩車→覚醒のシーンだったし、この映画では首チョンパされた主人公の頭が背景の太陽と重なるカットだった。
例えば、古代神話の英雄伝ってツッコミどころが満載だよねという着眼点があり、
①ヒーローを描くときはリアリティを重視しようというのがハリウッドであるなら、
②その英雄伝に観客を洗脳させるために3時間使おう、となるのがインド映画。そんな感じ。神話の描写をそのままやって1分ごとに観る人の脳のシワを一本ずつ減らす。

だからこそ”英雄”である主役のチランジーヴィがかっちょええのは言わずもがな、それだけで成立するように出来てる映画だけど、脇を固める人々も魅力的だった。これは、大テーマとして解放闘争という大きなうねりに対し各人物がどう向き合うかという流れがあったからかなと思う。
ヒロイン(のひとり)タマンナーはミュージカル部分の核であるだけじゃなくてそれ自体が主人公と裏表の関係としての解放闘争になる。結ばれることもないし、インド映画では初めて観るタイプの人物像だった。
隣村の領主スディープは『マッキー』で半ギャグ的な悪役もやってたからそれがあんなにクールに掴みどころなく変身できるものかと笑っちゃった。そのせいか決定的な場面があるまで裏切るか裏切らないか本当にわからなかった。
面白かった、本当に。

ただ最後に、インド映画的英雄伝と独立解放史って悪い意味で親和性が高すぎるなとも感じた。ヒンドゥー・ナショナリズム。RRRでも類似の話題があって製作者が一笑に付してたみたいだけど、少なくとも先進国以上に教育格差が根強いであろうインド圏でこういう映画を観た人の何割がその視座を持つことがあるだろうとは考えた。
そういう意味でも目が離せない。
ムテモン

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