日下勉

Hereの日下勉のレビュー・感想・評価

Here(2023年製作の映画)
4.0
なんともミニマルな作品。
ルーマニア出身の建築現場で働く労働者が夏の休みで帰郷する前、冷蔵庫に残った野菜などでスープを作り、知人にあげる。もう一人大学で苔の研究をしている中国系の女性が森の中で研究のために苔を採集。そんな二人が偶々出会って、森の中を散策しながら苔を採集したりする。ただそれだけの話で、正直物語としては面白くもなんともない、でもゴースト・トロピックと同じく16ミリのフィルムで撮された森や苔の美しさ、風の音や鳥の囀りなど映像に見入ってしまう不思議さ。中国系の彼女が苔を観察するように、この映画では森や自然とブリュッセルで生きていく多民族の人びとをじっと観察しているような、そんな映画でした。
苔で思い出したのが、以前読んだ本で「大地の五億年」(藤井一至 ヤマケイ文庫)。この本で知ったのが、地球に土が誕生したのが五億年前にコケ類が地上に進出し、地上の岩石を「耕した」から土が生まれたという。こんな些細とも言える苔が土を作り、地上に草木を成長させる土台を築き動物たちが暮らす元になったのだと思うと、この映画で描かれる街でつましく暮らしていく多くの移民たちと通じるものを感じた。
日下勉

日下勉