サウジアラビアの映画を観たのはおそらくはじめて。リヤドを舞台にしたサスペンス・ドラマ。独身の中年男性Fahadは、勤め先のコールセンターで退職を促す上司に逆上して消火器をぶっぱなしては警察沙汰になる。職を失い、あてどなく車で街を徘徊する毎日。あるとき、配達のバイトで高級マンションに赴くと、そこで不法に酒を届けている運び屋に遭遇した。運び屋のあとをつけ、倉庫から酒を盗み出しては「運び屋（Mandoob）」に転身するのだが、その界隈を取り締まるギャングたちに目を付けられ、たちまち転落してゆく。
　主人公Fahadを演じたMohamad Aldokheiの、何とも情けない風貌の佇まいがいい。全編をつうじて夜のシーンがほとんどで、リヤドという大都会の闇がくっきりと浮かび上がってくるような見事なロケーション撮影に瞠目。ミュージック・ビデオのような質感もあるのだが、一瞬だけ挿入されるようなショットの数々もセンスが光っていてたまらない。あまり観ることのないサウジアラビアを舞台にした上質な現代劇でおもしろく観た。