TenKasS

至福のレストラン/三つ星トロワグロのTenKasSのレビュー・感想・評価

5.0
『ボストン市庁舎』以上にミニマルで、かつ明確に主人公がいるように見えるので、見易すぎる。見た事の無い一生食べることができないだろう食べ物が大量に出てきて最高。
効率化と多様性の尊重の食い合わせの悪さをお客さんの好き嫌いや状況、体質に合わせてメニューをカスタムする行き届いたサービスを観ながら思う。このレストランの対極の存在は強制収容所ではないかとさえ思う。
レストランの営業風景に留まらず食材選びについての会話が多数交わされているしその風景も映されているが、ワイズマン作品のリズムを作るインサートの自然や環境の風景も相まって、人間が他の生き物同様に自然物であるという当たり前の事実へ否応のない想像力が掻き立てられた。それは80年を越えて続くこのレストランと、家族についての対話で幕を閉じるこの映画の態度に通底する事実なのではないか?と思う。
「料理はシネマ(虚構)ではない」という言葉が出てきて確かに料理は五感を活用する芸術だが、映画には視覚と聴覚しかないと思い出す。視覚と聴覚だけの存在になっているからか、現実では僻んでしまいそうなお金持ちたちも微笑ましく眺めていられる。そしてこの観客の感覚の限定というのは映画におけるドキュメンタリーとフィクションに本質的に差異がないことへの一つの解答となり得るのでは?と大袈裟にも考えた。何にせよ剥き出しの撮影と編集、音響という「映画」に4時間晒されるのは恍惚でさえあった。
撮影がいつものジョン・ディヴィーじゃなかったからか、寄ったり引いたり手持ちでぐるぐる人の周りを回ったり、少し違う感じがした。
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