るるるん

かぞくのるるるんのレビュー・感想・評価

かぞく(2023年製作の映画)
3.0
エンタメ映画ではなくアート映画
アンニュイな美しさというか暗く美しい映像美が印象的。
息苦しい閉塞感のある話が自然あふれる景色を背景に織りなされていく。
片田舎でおこりうる日常の一端を垣間見てる気分。
好みは分かれるだろうが、個人的にはスルメのような味わいというかじわじわと効いてくる。
とにかく役者陣の演技がすこぶる良い。
セリフは極端に少なく、説明のないまま展開する。
それだけに役者の表情からそれを読み取ろうと自然と集中してしまう。
そして4人の主演役者陣はまったく無駄な表情をしていない。
それがすごい。さすがだわ。

赤い吊り橋に夏の学生服姿で佇む吉沢亮はそれだけで画が持つ。
鬱積した暗いまなざしが秀逸。未成年であるがゆえのままならぬさと激情を秘めていて素晴らしかった。
ドア越しの涙、散骨での何かが剥がれ落ちた虚無の瞬間も素晴らしい。
そして小栗旬ですよ!
今作ではほぼセリフもなく吐息だけで苦悩と葛藤を表現していて圧巻!鎌倉殿より今作のほうが本領発揮しているのでは?と思ったくらい。
永瀬正敏はなぜあんなにも色気あるクズ男ができるのか?
語らずとも語る悲哀がとてもよく似合ってた。
阿部進之介はエリートがふと人生に疲れてしまい幻想的体験を通して最後は表情としての笑顔はなかったものの安堵した雰囲気が滲み出ていて良かった。

錚々たる面々のクワトロ主演だが、女優陣もなんと豪華なことか!
鶴田真由、渡辺真起子、福島リラ、秋吉久美子、根岸季衣。
実力派が集っているからこそ一瞬のシーンでも物語が成り立つ。
鶴田真由が母親で吉沢亮が息子でなんと美しい親子!と頭の隅で思いつつ(笑)
子役もみんなうまかった。

そして地方出身者なので、田舎の閉塞感には共感多々。
マコトやタケオのパートで描かれているが、田舎はある意味小さな監視社会。家庭事情がなぜか周囲に知れ渡っており、その中で暮らしていかなければならない怖さと絶望感。そして近くて遠い隣人たち。
マコトに向けられた「この町の人はみんな家族みたいなもんだから」と安易な慰めが鋭利な刃物となって切りつけ、湧き上がる怒り。「あ、分かる!」と実感できる空気感。
東京出身の吉沢亮がよくこの目をできたなと感嘆。
ユウイチが佇む交差点も丸の内=都会での活躍を示唆しているようで、その都会に疲れて田舎に帰ってくる面倒くさいけど安堵感もあるという複雑さ。
すべて田舎の閉塞感が象徴的に描かれているようで、身につまされるのがスルメ効果の要因かも。

ただこの映画は起承転結があるわけでもないし、娯楽性があるわけでもない。
考える映画でもなく感じる映画だと思うので、とても抽象的。
暗く重苦しいのもリピート鑑賞には向かないが、役者の演技も映像美も堪能できるので、初監督作品でこれは大成功だと思う。
るるるん

るるるん