砂利川権兵衛

ゴールド・ボーイの砂利川権兵衛のレビュー・感想・評価

ゴールド・ボーイ(2023年製作の映画)
4.2
最高。今年のベスト候補。「(スラッシャーではない)殺人鬼映画」として秀逸すぎる。岡田将生の東出昌大オルタナティブっぷりも絶好調。邦画版『CUBE』で岡田がパラノイアに陥る姿を見て笑えた人間は間違いなく楽しめるし、なんなら『ドライブ・マイ・カー』の岡田が好きな人もイケると思う。

物語開始前から既にどうかしていた羽村仁成にクラクラする。あれだけのことをしておきながら、星乃あんなへの気持ちに嘘はないという複雑怪奇すぎる精神構造が心の底から素晴らしい。羽村の星乃に対する気持ちが本物だからこそ、エモーショナルなシーンに説得力が生まれるし、エモーショナルなシーンに説得力があるからこそ、痛ましさがより切実なものになる。

羽村の計画を知ったうえで振り返ることのできた星乃と、息子の異常性を前に打ちひしがれるだけで振り返ることのできない母親の対比。どうしてあのような「化け物」達が誕生したかを一切説明しない潔さ。あえて「深く」描かないことの聡明さ。薄っぺらさが奥行きにつながる逆説性と現代性。

平成ガメラ三部作以降の金子修介の代表作と言える力強い作品だし、同じ沖縄を舞台にした初期北野武の傑作『3-4X10月』『ソナチネ』で撮影を担当した柳島克己のキャメラが捉える美しい風景が凄惨で儚い物語とともに記憶に刻まれる。