パングロス

青春18×2 君へと続く道のパングロスのレビュー・感想・評価

青春18×2 君へと続く道(2024年製作の映画)
3.7
◎清原果耶に頼りきった台南男子初恋物語

公開日から3週間以上経って、上映回数も少なくなって来たので慌てて観に行ったが、若い女性客中心に、ほぼ満席。
今年に入ってから(アニメはあまり観てないので一応除外すると)いちばんの人気作らしいことに、まず驚かされた。

前フリだけしておくと、近年、演技巧者が多い若手俳優たちのなかでも、正真正銘の演技お化けが3人いるというのが私の持論だ。
一人目は今や大家の風格さえある菅田将暉。
二人目は出演作全てが話題作となる杉咲花。
そして、三人目が最も若い清原果耶だ。


【以下ネタバレ注意⚠️】





そう、まさしく本作は、清原果耶という演技お化けに完全に依存した作品だ。

中盤過ぎまでは、まんまと製作者の思う壺にハマり、清原果耶演ずるアミは圧倒的に可愛いが、アミに思いを寄せるシュー・グァンハン演ずるジミーはパッとしないし、アミの側もいくらなんでもジミーの想いはわかるだろうに無神経な女だ、とモヤモヤしながら画面を見つめていた。
この何だか恋愛だか、片思いだか、どっちつかずの映画が成立しているとしたら、あまりにも清原果耶の可愛さに依存し過ぎだろう、と疑っていたのだ。

ところが、終盤で、実は、アミはジミーの想いをすべて受け止めていて、自分の方でもジミーに恋していた。
だけど、死に至る病気を抱えていることを隠しているがゆえに、ジミーを傷つけない形で嘘の自分を見せ続けていたことが明らかになる。

中盤までは、無神経かと思うほどに、「屈託」という言葉とは無縁の天真爛漫で無邪気で底抜けに明るかった彼女が、そのすぐあとには、ジミーに見えないように号泣していたことが明かされるのだ。

この究極の「二面性」を、作劇上の作りごとなどではなく、本物の生身の女の子の感情として露わにした清原果耶の凄さといったら‥‥

やはり、本作は、清原果耶という存在に依存することで初めて出来た作品だった。
ただし、その可愛さばかりではなく、それと同じか、それ以上に深い哀しみの表現者として。

アミと出会ったとき、18歳だったジミーは、彼女の死の知らせを受け止めきれないまま時を過ごしていた。
しかし、ようやく18年後に事業の失敗に遭ったことで、初めて彼女の死に向きあうための「旅」に出る。

旅の途中で出会う、18年前の自分やアミを思い起こさせる学生の道枝駿佑、
台南出身で信州松本で居酒屋店主となっているジョゼフ・チャン、
新潟は長岡のネカフェからジミーを津南町のランタン飛ばしの現場まで案内してくれた黒木華、
ようやく只見に着いたジミーをアミの家まで車で送ってくれた松重豊。
現在の日本でのロードムービー編の出演者は皆、素晴らしかった。

ただ、正直、シュー・グァンハンの18歳の演技は、さすがに無理があったのか、その年齢らしさに欠けていたように思えたし、その年での初恋というのもリアリティが感じられなかった。

全般、日本人俳優のセリフや演技は良かったのに、台湾人俳優の方は、脚本が練れてないのか、詰まらないセリフや紋切り型の演技が多かった。

アミの歓迎会で参加者が泥酔しているさなかに、ジミーにバイクの二人乗りをねだるのは、ジミーが未成年だから飲酒しなかったという前提だったのか、説明がなく気になった。

台湾でランタン飛ばしが行われるのは、台北に近い「十分(シーフェン)」だそうで、後の津南町のそれと重ねるためと、フォトジェニックな観光行事であるため、無理くりに挿入した感があったのは否めなかった。

藤井道人監督と言えば、2019年の『新聞記者』は各種の賞に輝いたが、あれは安倍政権に映画人たちが辟易としていたためであって映画としての出来は最悪だったと思っている。
本作でも、「はじめに作為ありき」的な作劇が垣間見られたことは残念だ。

正直、終盤の清原果耶の演技にはノックアウトされて落涙滂沱してしまったが、特に台湾編の出来はあまり芳しくなかったのではないか。

しかし、そんな心配をよそに、台湾はじめアジア各国で、本作はヒットしているという。
清原果耶という演技お化けの評価が、この機会に、アジア諸国で共有されるとしたら、まずそのことを素直に喜びたい。

《参考》
*1 アジアで大ヒット『青春18×2 君へと続く道』藤井道人監督が語る、映画づくりの内核
2024年5月 1日
www.cyberagent.co.jp/way/list/detail/id=30142

*2 【青春18×2 君へと続く道】○○の時点で勝利!?パンフレットに求める情報が・・・
シネマサロン 映画業界ヒットの裏側
5月13日
m.youtube.com/watch?v=NbLSYUtZa0E
パングロス

パングロス