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清作の妻のBOBのレビュー・感想・評価

清作の妻(1965年製作の映画)
3.8
増村保造監督&若尾文子による。

日露戦争直前のとある小さな村。老人の妾であった女性が故郷に帰るが、村八分にされる。模範兵と称される村随一の男と恋に落ちる。

「模範兵」「恐ろしい女」🔔

暗い、重苦しい、厳しい、胸糞悪い。

戦争によって愛する男女が引き裂かれるタイプの戦争悲愛ドラマを想像していたが、その類の話ではなかった。"模範兵"と"アバズレ"というレッテルに縛られた男女による悲劇的な純愛ドラマ。閉鎖的な社会における集団心理が大きなテーマとなっていて、社会派ドラマ色が強い。

男尊女卑の男社会、村八分、お国のために戦死するのが名誉だという同調圧力。冒頭のスケベじじいから絶望的なラストまで、人間の嫌な部分がこれでもかというぐらい生々しくはっきりと描かれ続けるので気が滅入った。

"模範兵"というレッテルに縛られた清作。毎日、早朝に打ち鳴らす鐘がその象徴。誰もが尊敬する模範兵が、一晩にして、"売国奴"や"非国民"と罵られ、村八分を喰らう。態度を180度変える村人たち、異質を徹底的に認めない集団心理が恐ろしい。これはある種、人間の本質であり、普遍的な話だ。

こんな形でしか愛を貫くことができない悲しさ、無念さが強く残る。

村人たちの村八分描写がえげつない。男女子供関係なく、肉体的な暴力も言葉の暴力も陰湿極まりない。こんな暴力表現は、今の時代ではまずできないだろう。

増村保造監督は、徹底した画作りをする監督。演出、撮影、カット割り。どのショットも興味深い。

若尾文子。孤独に苦しみ愛に狂う、悲劇の女を怪演。例のシークエンスは、若尾文子の心神喪失した表情、返り血を浴びた顔、ホラー映画的な見せない恐怖演出も相まって、寒気がした。その後の暴行シーンも可哀想すぎて見るに耐えなかった。"ザ・昭和の女"みたいなキャラクターはあまり好みではなかったが、女優魂を感じさせる迫真の演技に魅せられた。

575
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