ちーたら

あんのことのちーたらのレビュー・感想・評価

あんのこと(2023年製作の映画)
4.7
凄まじい映画だった。
これが実話を基にした物語だというから尚のこと衝撃を受けた。
とにかく救いがない展開の連続で、観ていて辛かったが、どこまでもリアルだからこそスクリーンに釘付けになってしまった。
終始、絶望の淵で生きる杏の姿が映し出されるが、確かにそこには希望があったように思えた。

生きようともがくと、他者との繋がりがどうしても必要になる。即ち形成されていく人間関係によってその人の人生はいかようにも変化していく。
杏はそれを選ぶ立場になかったからこそ壮絶な人生を歩むことになってしまったのだろうが、どこかでまだやり直すチャンスがなかったのだろうかと思うと、胸がしめつけられる。

河合優実さんのこの世に諦めを抱いた暗い表情と、刑事の多々羅と出会ってからひたすら前に向かって進み続ける希望に満ちた表情とのコントラストが素晴らしかった。どの作品を観ても、この人は本当に人々を魅了する女優さんだなと思っていたが、本作での河合さんの演技は今までのどの作品よりも輝いて見えた。本作は間違いなく彼女にとって代表作になるでしょう。

佐藤二朗さん演じる多々羅も素晴らしかった。おふざけ一切なしの佐藤二朗さんの演技はコミカルとシリアスの間をいく、これまたリアルな仕上がりで、『さがす』を彷彿とさせる圧巻の演技力だった。
稲垣吾郎さん、河井青葉さんも厚みのあるキャラクターを見事に演じていて、目を背けたくなるような醜さをこれでもかと体現していた。

鑑賞できて良かったと心から思えた、至極の一本です。
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