ボギーパパ

あんのことのボギーパパのレビュー・感想・評価

あんのこと(2023年製作の映画)
4.5
劇場2024-54 kino天神

いやはやなんとも凄い作品と出会ってしまった。これはもう評するなんておこがましい。ただただ感想を記すのみ。

冒頭無音での赤羽らしき街を徘徊するシーン、後にこの話がどう進んでいくのかはっきりはわからないながらも、決してハッピーな話にならないのが明白な運び。

表情を殺した、というか心が死んだと思われる杏こと河合優実さんがその時点で既に痛ましい。生き地獄にいる辛さが全身から滲み出ている。
その痛ましさはどこから来るのか。
これもすぐにわかる展開。

杏がぬけられない地獄、ウリにシャブ。
そこに至るにはやはり家庭の問題が、、、
中学すら通っていない、12歳からウリをせざるを得ないこの娘の抱える背景がわかるような仕立ても、ほんの少し垣間見るだけで心が苦しい。酷い。

しかしその地獄から抜け出そうと足掻く姿はほんの少しながらも希望の光が見い出せる。杏の背中を押すなんとも変わった多々羅という刑事。
(佐藤二郎はこれまでは立場が真逆?だが「さがす』でも『はるヲうるひと』でも、タバコとアルコールの饐えた匂いがする芝居がよく似合う。)
そしてヤク中からの脱却を図るセミナー講師も引き受ける多々羅のそばには、謎の?ジャーナリスト桐野=稲垣吾郎も杏の希望の一部となる。謎だけど。

どん底にいるものが立ち直りのきっかけを得て前進していくといった展開は、ある意味よくあるものではあるものの、本作はスクリーンから一瞬も目を離させない力が漲っているというか、張り詰めているというか、凄いパワーだ。入江悠監督の技恐るべし。

この恐るべきストーリー展開及び絵作りは、先に恐ろしい結末が用意されているっていうのが冒頭に示されているから、より凄みを増して心に響く

そしてこの手の作品の展開として、これまた典型的ではあるが、ほんの小さな落とし穴なのか落石なのか、がストーリーを大きく動かし主人公のみならず物語のフレームごと再び奈落の底へと突き落とす。

この話に関わっている人全てが不幸になっていく過程がスピード感を持ちつつ描かれているところに目が釘付けとなる。

ほんの少しの、ほんの少しの事なのに、、、
っていうか、こりゃとんでもない事だけどね。こういうことって本当にあるんか?
とも思うけど、あるんだろうなぁ、、、変な言い方だが地獄のパッケージ(シャブ・ウリ・家庭環境・性加害・ネグレクト・コロナ・事なかれ公務員・ある意味腐れジャーナリズム・世間の無関心)みたいな作品。

そして、ここに来て特にコロナ禍の設定も活きてくる!当時コロナウイルスは人を孤独化させ、絶望感すら植え付けていった。しかし今となっては皆それを忘れている、、、
本作はあの時の感覚を再び思い起こさせ、杏の身に起こることの背景に蔓延るが如く影を投げかける

影に覆い被される杏
自らの行いにより枷をかけられる多々羅
そして自らの行いにより実は影を広げてしまった桐野
描かれるバランスも素晴らしく、物語は綾なされ我々の胸を締め付ける。この苦しさは入江監督の狙いのはずだが、かなりの締め付け感で最後は呼吸が苦しくなるほどでありました。

全体的に暗い場面も多く、苦しくなる描写も多く、逃げ出したくなる演出なので、逃げ出せない環境=映画館での鑑賞でないといけない作品です。

思い出したくないけれど、まだまだ記したいことがあると思うので、後々書き足していきます。

それにしても、イラつき!
①杏の母親(これは病気だ)
②あの原因を作った母親共に許し難し!
特に②!
最後の聴取シーンには腹が立ちまくり!かなりイラッとさせられたのも監督の思惑通りなのだろうが、感情移入というか、のめり込んで立腹してしまった。

桐野〜辛いなぁ、、、わかるけど、あの判断はどうだったのか、、、悩む
ボギーパパ

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