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無名のMHRのレビュー・感想・評価

無名(2023年製作の映画)
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面白かったし、よく作っていたが、何となく私の中で突き抜けない。

まず、いかんせん台詞が聞き取りにくい。日本語のうまいキャストにも日本語字幕は必要だと私は思う。王一博はゆっくり・はっきり発語するから、まだわかる。表情でも音楽でも、あるいは映像でも語る(後述)から、少しくらい聞き取れなくてもほぼ完全に補完できた。問題なのは日本軍キャスト。華族がまじった兵たちの会話には苦労したが、あそこで言いたいことは「本当に華族でした」に尽きるから、まだいい。問題は上司だ。本当に何を言っているのかわからなかった。威厳を保つためか、やたら口を閉じて話すにもかかわらず、ものすごく大事なことばかり言っている。彼の話・彼との会話で話は進みまくるが、いかんせん一切聞き取れない。食事のシーンが多く、そこでは全員「腹の中を見せない」コンセプトでトニーレオンも王一博も誰も彼もほとんどまともに話さない上に、表情も保っている(かっこいいシーンなんだと思う) ただここでしゃべりまくる吟遊詩人役の詩が全然聞こえない。話が全然わからない。どうせ後で説明してくれる(後述)と分かっても、いかんせんその間眠くなる。そういえば私が邦画見ないのって耳悪いからだわ、と久々に痛感した。別に滑舌が悪いとか、発声がどうとか、全くそういう話じゃない。演技の作り方だろうし、ぶきみな愛国者としての雰囲気は出していたと思う。ただ、とにかく、字幕をつけてほしい。中国映画では全てのセリフに字幕がつくというが、そのフォーマットをそのまま輸入できないものか。語数は確かに多かったが、全てが必要不可欠な発語というわけでもあるまい。

また、個人的には、少し説明過剰に感じた。構造・映像・音楽・台詞がとにかく説明するのだけど、そこまで語らない方が私は好きだ。親切にしても、そこまでする必要があったかと言われば疑問に思う。リズムが良くないように感じることも多々あったので。
構造として、時系列のバラシは面白い工夫だけど、「ここで切ったままでいいよ」と何度か思った。あるいは、「ここは繰り返さなくても」と思う瞬間。ラストの「俺も共産党員だ」は名乗りとして必要だとわかるけど、それ以前の、例えば全体的に食事のシーンなんか、そこまで繰り返さなくても、と思う。答え合わせが多いな!と感じたが、いっぽうその答え合わせに助かったことも事実ではある。映像としての説明は、すばらしいところが多かった。凄みのある映像、よく撮ったな!と感じるシーンが定期的にやってきて、「映画」的な力があった。一つ一つのシーンは本当に美しく撮ってあって、素晴らしい部分もたくさんある。その繋げ方が私はあまり好きではなかった、というとまた構造の話になるが、やはり映像(演技)が雄弁に語ってくれる映画であるから、もう少し答え合わせを減らしても良かったと思う。そして1番過剰に感じたのは音楽で、これは少しもやもやした。音楽自体は壮大で、これまた凄みがある。というか音楽撮影演技の三つはどこも凄みがあって、過剰な部分もむしろ効果的だと思う。ただ音楽まで説明しはじめると、過剰な効果が「説明しすぎ」に波及していく。演技が上手くて、映像で語っているのだから、衝撃的なシーンの前に「ダーン」とでもいうような効果音を設置しなくてもわかる。私はシーンが始まる前に効果音で説明してしまうような演出(今からショックですよ、今から感動ですよ)があまり好きではないから気になった。そこまでしなくてもわかるよ、という気に何度もなったし、それは根幹に関わる「実は」の部分においてもそうだ。トニーさんに、王一博さんに、あるいは丁儀さんにもっと任せていいじゃんという気になる。後半、今ついていかれなさそうな部分も音楽で説明してくれるだろう、と少し集中を削いでしまった。画面自体は注目すべきなのに、何となく「まあまた後で言われるか」「これは音楽が壮大だから何かあるんだろうな」とのめり込みきらずに見てしまうきらいがあって、それにもやつく。
ひとつひとつは力強くて、目を引くシーンも多かったが、その繋ぎ方・構成の仕方があまり好みではなかった、ということになる。かといって別につまらなかったわけではない(おもしろく見たし、繰り返すが、シーン単体は本当にすごい)から、何となく自分の中で評価が難しい。単体で言えばすごい点がつくところもあるが、そのままペンタグラムにしたときの美しさには納得できないというような、そんな感じ。

話に関しては、後半は何となく予想できたので、びっくりというか「よく作ってあるなあ」という感じだった。個人的には役者映画・スター映画的なきらいが強い。演技がそれぞれ良くて、それぞれの戦い方をしていたから。トニーレオンはほぼニコニコしているだけなのに一口では言い表せないような雰囲気があって、当然アクションも良い。王一博はよくここまで見せてくれて!と肩を叩きたくなるような力の入れぶりで、「陳情令」しか知らなかった私はたいへん好きになった。ある意味王一博の映画と言っても構わないくらいだ。激情・アクション・セリフ、音楽と映像の過剰さに負けないくらい泥臭くてよかった。そして周迅!!出てくる時間は本当に限られているのに、はっきり存在感があったし、すごく良かった。主役とは一線引いた迫力があって、焦燥感も困惑もよく描かれている。江疏影は、別にこれは彼女でなくても良かったのでは?と思ったが、普通にスクリーンで出会えるとは知らなくて嬉しかった。どこかオッペンハイマーのフローレンスピューを思い出しましたが、これは何でだろう。しかしものすごく綺麗な方です。綺麗繋がりで言うと張婧儀がとにかく美人でびっくりした。役所はかなり不幸だったが、もっと出番があっても良かった。寡聞にして知らずだったので、もっと他の演技も見たい。もっと他の演技も見たい繋がりで言うなら圧倒的にエリック・ワンで、あまりにも不気味。こういうジャンルの存在感をもっと見たかったし、気持ち悪くて良かった。三体でもなかなか独特なオーラを放っていたし、すごく気になる。薬の神じゃない!見るぞ!!なんかこういう俳優さんとの出会いの映画だったかも。スター映画としてかなり良かった。
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