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義父養父のritsukoのレビュー・感想・評価

義父養父(2023年製作の映画)
3.7
冒頭、うなぎを食すシーンから始まる。日本の実家感溢れる食卓といういかにも、な場所にて。その図は小津安二郎を彷彿とさせつつ、色の濃さは中国や台湾映画も意識させる。この映画に台詞は少ない。時の変化も、物事の変化も、時々曖昧だ。こたつで眠るも、びくともせず日が暮れる。本当に寝てばかり。作品には関係ないが、高校生の頃こたつに入ったまま何もせず日が暮れるとああ何もせずこうして一日が終わるのだと思ったことを思い出した。
ふたりが煙草を吸っているシーンでは、車のライトの明かりがふたりに強く映ってほのかに赤が滲む。監督は映像の方に画家の絵をみせて、こんな感じにしたい、とタイトルやポスターの「赤」を意識。染料で勝手に染めた真っ赤なレースカーテンはなんだか異様な空気。ひきちぎる様には怒りや不安さを抱えた様子。監督に質問できなかったけれど、赤=血や怪しさを連想させる。どきっとする。落ち着きはしない。何故赤にしたのか聞きたかったけれど恐らくこんな理由なのかなぁ。34歳ファッションデザイナーのリカ。自分も服をつくっていて、キミコはわたしの母の名だったので自分のこともほんのり重ねてしまった。付き合っているであろう彼氏のよそよそしさ。豊の死を境にお金目当てだと疑われるリカ。養子先の文子の最後の叫びに意識が向く。
濱口竜介監督の助手や新作の「悪は存在しない」「Gift」主演のオオミカ監督。友人のエピソードを元につくったという60分の映画。わたしも身の回りのことや物事からモノをつくっていてパーソナルな部分にフォーカスした作品はすきです。わからない部分も沢山あったけれど、敢えて「わからなさ」を追求して観客に委ねたのかなと思いました。コムデギャルソンの川久保玲さんも、こう言葉を残す。「よかったですね、きれいですねと全員から評価を受けたとしますね。それはもう不安です。そんなにわかりやすいものを作ったのかと自己嫌悪に陥ってしまう。」わかるようでわからないものをつくるのは簡単ではないね。これからのさらなる飛躍に期待します。Tシャツを買いました、応援しています。
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