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マイノリティ・リポートのtsuraのレビュー・感想・評価

マイノリティ・リポート(2002年製作の映画)
3.7
本作は今のところ過小評価されている作品だなと思う。
2002年の作品ながら既にこれ程迄に近未来を予測し、且つリアリティに優れながらもエンターテイメントとして余すところなく刺激に満ちた作品だからだ。

勿論それを手掛けるは映画ファンなら誰もが耳にする目にする安心安定、良品質を約束してくれるスピルバーグ監督。
彼が「A.I.」の次に手掛けた本格派SFサスペンスアクション。

この作品の評価は批評家筋には良かったみたいでこの年のアカデミー賞前哨戦の時期直前まで本作と「ロード・トゥ・パーディション」が拮抗していたというのだからそのクオリティは折り紙つきだ。
(結果2002年は賞レース時期になるや否や豊作だったわけだが)

話は戻るがこの作品からは従来のスピルバーグらしい優しいイメージは本作からは感じられない。
「ジュラシックパーク」の系譜を継ぐ様な惹きつける作品の魅力はあるけれど、「シンドラーのリスト」の様な暗さがこの作品から燻る。

勿論「インディ・ジョーンズ」シリーズにも繋がるエキサイティングなアクションは随所に印となり本作にも残っているが、矢張り本作を語る上ではスピルバーグ監督が持っていた過去の"優しい"SF感を180°覆し暗くダークテイストに、そして極めて現実的ながら"暗い"未来創造の中でヒッチコック的仕掛けを用いて逃亡劇として仕上げられており見ていて、まぁ飽きないから凄い。

実は公開当時、劇場へ足を運んだ時は理解しきれていなかったし、それよりも自分の元来あった固定概念即ち、自身のスピルバーグ感が感じられず、いつもと違っていたショックの方が大きくて若干の肩透かしをした思い出が蘇ってきた。

では何がその"肩透かし"を招いたのだろうと思いながら今回見ていたが、この監督らしからぬ速い語り口と折り重ねる展開に次ぐ展開そして、この作品の主幹となる犯罪システムの妙を咀嚼しきれず置いてけぼりを食らっていただけだった笑

寧ろ思いのほか説明はいちいち丁寧だった事には驚いた笑
これで、当時理解しきれず見終えていたのかと。(いや、お恥ずかしい限り笑)

原作は未読だがコリンファレル演じる司法省調査官"ウィットワーが劇中で"捜査"はしているがあちこちで観客のガイド役となってヒントの提示或いは解答者の役回りを担っており作品に対して幾分疑問を持っていてもちゃんと彼に尾いていけば大丈夫であった。


でもこんなに楽しく観れたのに何か足らなく思った自分もいた事は確かだった。
それはやはりスピルバーグという安心保証がある意味でそれを覆す程では無かったというかとなのだろう。
結局のところSFなのに何処か古典的過ぎたのではなかったろうか。
ジャズでいうところの"セロニアス・モンク"感がない。(その引用、じゅうぶん古典だろうと突っ込まないで笑)
要するにSFなんだから、もっと突飛が効いて良かったという事だ。
誰も吹っ飛んだ空想科学の世界を見たいとゴネているわけではなく、もう少し設定された機能美に満ちた近未来世界に浸りたかっただけなのだ。
だからその辺りをもう少し魅せてくれたらもっとSFらしい雰囲気も出ただろうに…。

あと、例えばだがこれをスピルバーグ以外の監督が撮っていたらどうなったのだろうかとついつい思ってしまいながら見てしまった。

スリリングな展開は彼の得意とするところだけど、サスペンス感やダークさであればもっと深く濃く醸成されても今作なら裏目には出ないと思う。
では誰が適任者かと尋ねられれば困る見解だけど笑

ちょっとスレた意見申し上げてしまったが、個人的に改めて見て感心したのは先程少し述べたけれどその近未来感の作り込みには最も目を引いた。

プロダクションデザイナーの設計した近未来デザインも相当リアルだが、それを膨らませる為にスピルバーグは専門家を集めて"未来"について討議したという。
そこには各分野のエキスパートが連ね年代別、分野別にテクノロジーの進化を討論してアイデアを膨らませたそうだがその説得力は凄まじい。

変化やその過程に於けるトレンドの変化まで予測を立てていたそうで、そうやって見てみるとこの2019年を生きる今だけでも、想像に難くないデザインが今作に見え隠れしておりある意味残り30年後の未来で今作を見て比べてみたくもなった笑

本作を纏ったハード面のディテールにも気にしながら見てみるとまた違った面白みを感じれると思う。


ということで結論、良くも悪くもスピルバーグテイストだったということ…かな?笑
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