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コンテイジョンのyuseのレビュー・感想・評価

コンテイジョン(2011年製作の映画)
4.0
新型コロナウイルスが流行するずっと前から気になってチェックしていた映画。今のご時勢だからこそ見ておきたいと思い鑑賞。
正直9年前に製作された映画なのに、予想以上に現在の世界情勢をよく反映していることに驚いた。
今作に登場する「MEV-1」という感染症ウイルスは、無症状患者と死亡する患者がいること、指数関数的に短期間で世界流行してしまうこと、ドアノブや手すりに触れたり、顔に触れることで感染リスクを広げること、誤った「デマ」が出回って世間が混乱に陥ることなど、新型コロナウイルスが広がった世界と酷似しており、とてもリアルで恐怖を感じさせる映画だった。
この映画の結末を見て、今のコロナ危機は一筋縄では終わらないことを提示していて胸が痛かった。
この映画は今観るからこそ価値のある映画だと思う。多くの人々に今一番観て欲しい映画。






↓以下はネタバレを含むレビュー
【Motivation(鑑賞動機)】
今世界で新型コロナウイルスが猛威を振るっており、ネットではそんな世界情勢とかなり共通点の多いSFパニック映画だということで話題になっていたので鑑賞。
コロナウイルスが流行る前から気になっていたが、これは今観ておく必要があると思い鑑賞。


【Scenario(内容)】
アンダーソン社に勤めるキャリアウーマンのベス・エムホフ(グウィネス・パルトロー)は香港出張からアメリカに帰国した後、謎の感染症を患って病院で亡くなってしまう。同じく小学生の息子のクラークもベスと似たような症状によって後を追うように亡くなっていく。
妻と息子の死にショックを隠しきれない夫のミッチ・エムホフ(マット・デイモン)は、彼女らの死が感染症の疑いがあることから、彼自身も病院内で隔離される。帰宅した娘のジョリー(アナ・ジェイコブ・ヘロン)は夫ミッチと直接面会出来ずにいたが、ミッチには感染症に対する免疫が出来ていることが発覚し解放される。
その時、ベスの感染経路を追っていた医師たちの調査から、ベスが香港からの帰りにシカゴに寄って浮気相手と会っていたことを知らされショックを受ける。

ベスの感染経路を捜索していたエリン・ミアーズ医師(ケイト・ウィンスレット)は、感染拡大が酷いミネアポリスへ行って現地調査を行っていた。しかし、彼女自身も謎の感染症「MEV-1」に感染して仮設病棟の中で死亡する。
彼女と協力して「MEV-1」の研究をしていたイアン・サスマン博士(エリオット・グールド)は、国の機関の研究開発はスピードが遅いと独自で研究を行っていたが、ついに「MEV-1」の培養に成功してこの功績を国に提供する。
一方、アラン・クラムウィディ(ジュード・ロウ)は、YouTubeで「MEV-1」の治療薬としてレンギョウが効くというデマを流し、レンギョウを大量に売ることによって莫大な利益を稼いでしまう。

エリン・ミアーズ医師によって、「MEV-1」の感染源が香港だと特定され、香港でベスの行動映像を解析して調査を行っていたレオノーラ・オランテス医師(マリオン・コティヤール)は、共同で解析していた中国人医師スン・フェンによって拉致されてしまう。

ミッチが住むシカゴでは、「MEV-1」による感染拡大により都市閉鎖が行われようとしていた。都市閉鎖を事前に知っていたエリス・チーヴァー医師(ローレンス・フィッシュバーン)は、娘のオーブリー・チーヴァー(サナ・レイサン)にシカゴから退避するように指示し彼女を助ける。
シカゴは封鎖され、シカゴ内で食料の買いだめなどが起きて混乱し、暴動に発展してしまう。
ミッチの娘のジョリーは、恋人の彼氏と思い通りに会えない日々に怒りを募らせていた。

一方、サスマン博士は「MEV-1」によって亡くなり、後を継いでワクチン開発を続けていたアリー・ヘクストール医師(ジェニファー・イーリー)は、ついにワクチンの開発に成功する。しかし数に限りがあるため、ワクチン摂取日はくじによって決められ、366日のくじを引き続けその日が誕生日の人順に投与されることとなった。
また、証券詐欺によって逮捕されたアランだったが、彼の信者による保釈金によって保釈されてしまう。

その頃香港では、レオノーラ医師が香港の田舎の村で子供たちに勉強を教えていた。ワクチンと引き換えにレオノーラ医師を引き渡す約束になっていた。ワクチンとの交換で身柄を解放されたレオノーラだったが、渡されたワクチンが偽物だと知り、それを告げに香港の村へ急ぐ。

ジョリーの恋人にワクチンが投与されたことによって、2人は念願の近距離での接触ができるようになる。ミッチは、ベスのカメラに収められていた中国人コックとの写真を見て泣き崩れる。
「MEV-1」は感染したコウモリが喰ったバナナを豚が喰うことで豚に感染し、その豚を香港で中国人が調理し、手を洗わずにベスと握手したことで感染したという結末が流れて物語は終わる。

ベス・エムホフの感染から事を発した「MEV-1」によるパンデミックが、様々な立場の人物から描かれる群像劇という構成をとっていて、非常に多角的に緊迫感が描かれていて良かった。一番辛く感じたのは、善人が次々と亡くなっていく中でアランのような罪悪人が生き延びてしまう世知辛い世の中を描いている点が酷かった。また、世界中が混乱に陥ると恵まれた人々だけが助かって下々の人間が犠牲になるという部分もよく描かれていた。

そしてなんといってもリアルなストーリー構成、シチュエーションだった。1箇所でも「えっ?」てなるようなシーンがあると拍子抜けしがちだが、そんなシーン一切なかった。だからこそ恐怖するし今のご時勢とリンクしていて尚更恐怖が倍増した。


【Looks(世界観・演出)】
個人的にこの作品で印象に残った演出は3つ。

一つ目は、接触感染がドアノブに触る、手すりに触る、コップに触れるという行為を介して行われるということを、カメラワークで明示的に示している点である。
例えば、人が触れた手すり部分をアップにして撮影したり、人が口付けたコップにカメラを近づけたり、人が触れたクレジットカードを他人が触れるその触れた部分を明示的に撮影している。
今流行りの新型コロナウイルスも、接触感染を防ぐために手洗い・うがい・消毒を呼びかけているが、それと同様で、人が触れたモノに触れることがいかにリスクの高い行為なのかを上手く示していると思った。

二つ目は、WHOや各保健機関内で繰り広げられる会話がとても専門的で、「SARS」や「豚インフル」も引き合いに出しながら会話されるので、非常にリアルな様相を演出できていたと思った。私は感染症に対して詳しくないが、そういった知識や現場の雰囲気は現実と非常に近いように思えて、手抜かりなく描かれている点がリアリティを上手く増していて良かった。

三つ目は劇中に使われる音楽がとてもスティーブン・ソダーバーグ監督らしくて、テンポよく危機感が迫っているような音楽で非常に好きだった。エンドロールも、最後のベスにどのように感染したのかが明かされて高揚している自分自身の気持ちをさらに高めるような効果を持っていて好きだった。


【Cast(役者・キャラクター)】
個人的に印象に残ったキャストは、レオノーラ・オランテス医師役のマリオン・コティヤールさんと、ミッチの娘ジョリー・エムホフ役のアナ・ジェイコブ・ヘロンさん。

マリオンさん演じたおらんテス医師は、非常に頭のきれて優秀な医師という印象をとても強く感じられて印象的だった。彼女の出演するシーンはどれも強く印象に残っている。

ジョリー演じるアナ・ジェイコブ・ヘロンさんも良かった。ただ、今作以外に彼女の出演映画作品が見当たらなくて残念だった。恋人と会いたいけど父親に感染を危惧され会わせてくれない。まるで、コロナウイルスが蔓延する今の社会の世知辛さとも似通っている点に共感できてしまう。こっそり、恋人と出かけてキスをしそうになる時に父に見つかって止められてしまう。そんな息苦しさをヒシヒシと感じさせる演技がとても素敵だった。
ラストシーンの2人でダンスするシーンは感動した。どれだけ待ち望んだ嬉しいひと時だったのだろう。


【Profound(作品の深み)】
この作品が公開された当時はどのような反応があったか分からないが、新型コロナウイルスが蔓延する今の世界を知る私たちにとっては、この作品がいかに的確にパンデミック時の世界を反映しているかが分かる。

この作品は、大きく分けて3つの立場の人間による描き方がなされている。一つは、ベス、ミッチ、ジョリーたち一般市民でウイルスの被害者となる立場、二つ目は、エリン、サスマン、チーヴァー、アリー、レオノーラといった医師やワクチン開発にあたる人々の立場、三つ目は、アラン、スン・ウェンのようなパンデミックによる混乱を逆手にとって莫大な利益を得ようとする立場である。

ミッチたちの立場からすると、何も原因が分からず家族を失った事への辛さと、パンデミックによって自分たちではどうすることもできない暴動やパニックに翻弄されてしまうということである。
これは、実際にコロナウイルスが蔓延することによって、既に起きているが都市閉鎖がされて普段のような生活が出来なくなる、デマが流れて何を信じればよいか分からなくなる現状と非常に近いと思った。
またジョリーの立場になるが、父ミッチに内緒で我慢出来なくなって恋人と会ってしまう気持ちも凄くよく分かるし、実際外出自粛要請されても街中に遊びに行く若者がいることと一緒だと思った。
そういった人間の心理面まで予見して描いている今作は凄いと思った。

医師たちの立場からすると、感染症に携わる仕事をすることによって自身もウイルスに感染して死亡してしまうという辛さがある。これは、今のコロナウイルスでスペインでは感染者の10%以上が医療従事者であるといった事実と関連すると思う。
また、チーヴァー医師がシカゴ封鎖を事前に知って、娘にシカゴから退避するように伝えるシーンがあるが、社会上優位な地位に立っている人ほどこういった危機において優遇される事実も、あながち間違ってないと思う。
少し例えはずれるが、コロナウイルスのPCR検査を受けられるのは著名人だったりと社会的地位の強い人が多い。そういった格差すら明確にしてしまうパンデミックの恐ろしさを描いている点も凄いと思っている。

そして、アランが暗躍して莫大な資金を稼いだり、スン・ウェンが医師を拉致してワクチンを手に入れようと躍起になるといった悪者も、このパンデミックのどさくさに紛れて登場する。
コロナ危機でも、少し例えがずれるが、オランダでコロナによる休館中の美術館でゴッホの絵画が盗難を受けたというニュースがあった。どさくさに紛れて絵画を盗む悪者は実際問題存在する。
これから、コロナ危機によって更に一般国民の生活が揺らいでくることによって治安が悪くなり、悪者が沢山暗躍する恐れがあることが考えられる。

この作品を俯瞰してみると、パンデミックによって貧富の格差が生死を分けてしまうことが分かる。
アランが布教したレンギョウという治療薬を巡って、ウイルスに感染しているが貧しいのでレンギョウを買うことが出来ずに彷徨っていた女性は、物語の終盤でお墓もなく写真に花だけ手向けられているカットがあった。こういった危機的状況では、貧富の差によって生死が変わってしまうという痛烈なメッセージ性をも感じた。
またワクチンにおいても、一度に世界中の人々に投与することは数量の問題上不可能なので、限られた人だけが投与されていた。香港に住む田舎の村人の元にはやってこないので、スン・ウェンのような人物が登場し、裏の手口を使ってワクチンをなんとかして入手しようとした。

こういったワクチンを巡る状況は、新型コロナウイルスの場合はどうなるのだろうか。
いずれにせよ、世界人口約80億人分のワクチンは同時に用意できないと思うので、裕福な人々から順番に投与されるのだろう。そうすると、貧しい人々のコロナウイルスへの感染リスクは高くなっていく。それによって、やはり貧富の格差によって生死を隔てる結果となりそうである。
この映画を最後まで観て、今後のコロナ危機がどのように終息するのかに興味が湧いた。そしてそれは、たとえワクチンが開発されたとしても解決されえない問題を浮き彫りにする恐ろしい結末だったことを知った。
1人でも多くの人が救える形でコロナ危機が終息してくれることを願うばかりである。


【Impression (印象深いシーン)】
最後のベスの感染経路が明らかになるシーン、コウモリ→バナナ→ブタ→中国人コック→ベスという流れはかなり衝撃的だった。本当にどこかへ旅行に行くことが怖くなるワンシーンだった。
シカゴ封鎖時の暴動のシーン、ものすごくリアリティがあるという意味で怖かった。
ジョリーと恋人が2人で雪の日に会っているところをミッチに咎められるシーン。遊びたい若者にとって窮屈を感じさせるシーンで、現状でも同様のことが起こっているから凄く共感できた。その反面、最後の2人でダンスするシーンは感動した。
レオノーラ医師が誘拐され、田舎の村に住む中国人へのワクチンと引き換えに釈放されるシーン、そしてワクチンが偽物だと知って村へ向かって駆け出すシーン。彼女の村人を救いたいという正義感にも感動し、村人に対する哀れみの感情も抱けるワンシーンだった。
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