MasaichiYaguchi

ゴースト・トロピックのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)
4.0
カンヌ国際映画祭やベルリン国際映画祭でも注目を集めるベルギーの映画作家バス・ドゥボスの長編第3作は、ブリュッセルの町を舞台に、最終電車で乗り越してしまった主人公が真夜中の町を彷徨い、その中での思いがけない出会いがもたらす、心の温もりを描く。
清掃作業員のハディージャは、長い一日の仕事終わりに最終電車で眠りに落ちてしまう。
終点で目を覚ました彼女は、家に帰る手段を探すが、もはや徒歩で帰るしか方法はないことを知る。
寒風吹きすさぶ町を彷徨い始めた彼女だったが、その道中では予期せぬ人々との出会いもあり、小さな旅路はやがて遠回りになっていく。
電車で寝過ごした為に自宅まで歩いて帰るという、ただそれだけのドラマなのに、何か本作には心の琴線に触れてくるものがある。
この移民であるハディージャが、どのようなプロフィールの人物なのかということは紹介されないが、自宅へと向かう途上で出会う人々との言葉少ないやりとりで、この地で暮らすようになった経緯や家族のこと、前職は何だったのかが分かってくる。
映画の幕開けのシーンや、ハディージャが地下鉄駅の手前で目を留めた一枚の広告が、終盤で見事なまでのコントラストを成す本作は、移民として生きる彼女の切実さを浮かび上がらせると同時に、何処か温もりと希望の余韻を残します。