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マリア 怒りの娘のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

マリア 怒りの娘(2022年製作の映画)
3.7
【燃えかすから現れた少女は歩き続ける】
動画版▼
https://m.youtube.com/watch?v=FKiLWHw946g&t=2s

2024年は珍しい国の映画が公開される。それはニカラグアだ。ニカラグアはソモサ将軍による長い独裁政権、内戦、ハイパーインフレーションによる経済低下で映画産業が育たず映画があまり作られてこなかった国である。そんなニカラグアから映画が届いた。それが『マリア 怒りの娘』である。監督のローラ・バウマイスターは1983年生まれ。国内に芸術を学べる場所がなかったので、一度は社会学を専攻する。やがて彼女はメキシコへ渡り、国立映画大学で映画の勉強をする。2014年に制作した短編『Isabel Im Winter』が、カンヌ国際映画祭批評家週間で上映され話題となる。そんなローラ・バウマイスターは今回ニカラグアで初の長編作品撮影に取り組んだ。映画産業の基盤がない中で試行錯誤しながら撮った『マリア 怒りの娘』はどんな作品なのだろうか?日本では2024/2/24(土)よりユーロスペースで公開ですが、試写で一足早く鑑賞させていただいたので感想を書いていく。

美と汚が共存する独特な空間から物語は開けていく。陽光差し込むゴミ山、山頂から車が現れる。ゴミでできた汚い大地、その奥には美しい海と山が広がっている。土埃が舞う。不気味に、いや神秘的に子供たちがむっくり起き上がり、ゴミの山を漁っていく。少女マリアは、残飯を見つけたようだ。腹を空かせた飼い犬に与える。しかし翌日、犬はぐったりしてしまうのである。実はその飼い犬は生活費のために売る予定だったのだ。運悪く引き取り手が現れトラブルに発展する。そしてそのまま母は行方不明となってしまう。

本作は孤独な少女マリアがひたすら不安定なニカラグアの地を歩んでいく様子が描かれている。たくましく、不条理と立ち向かい、時には大人に抗議しながら前へと進む。そんな彼女の前に老婆が現れるのだが、その優しい目から放たれる強烈なセリフに涙した。

「やり直すために燃やすのだよ」

燃えようがないようなゴミ山から現れた少女。やり直すために燃やすこともできない。それでも生きるために前へと進むしかない。このような残酷な現実を優しい言葉で突きつけてくるのだ。なんて恐ろしい映画なんだと思った。

日本公開は2024/2/24(土)ユーロスペース他にて。

是非ウォッチしてみてください。

【お詫び】
『マリア 怒りの娘』はニカラグア初の女性監督作品と語りましたが、有識者の済東鉄腸さん曰く他にもいる(Gloria Carrión FonsecaやLeonor Gutierrez)とのことでした。訂正します!

【おしらせ】
本作にコメントを寄せました▼
https://strollfilms.com/daughter/

「やり直すために燃やすのさ」
と老婆は語る。

しかし、燃えようがないゴミ山から
混迷する地に投げ出された少女の人生はやり直せるのだろうか?

そんな不安を背に彼女は逞しく
歩き続ける。その先に希望があると信じて。
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