自家製の餅

ジョン・レノン 失われた週末の自家製の餅のレビュー・感想・評価

3.8
ジョン・レノンと「失われた週末」を過ごしたメイ・パンという女性を中心としたドキュメンタリ。
本作の性質をまず端的に表すならば、メイ・パン本人が製作に関わっている点に集約される。けっして告発や暴露の類ではないが、ジョンやヨーコその周辺に関する歴史観に揺らぎを与えるには十分な注目作。

試写でもメイ・パンの存在を知らない人が多数であったが、一般的にはヨーコがジョンに差し向けたアジア系女性であり、ヨーコの代役ともいえる一時的な存在で、ジョンの復活とヨーコの復縁を助けたイメージがあるだろう。

本作では、メイ・パンが活気ある若者で、アップル社のスタッフであり、数々の作品にもクレジットされた人物であり、端役というには惜しい存在であること。また、失われた週末やメイとジョンが共にした期間に多くの作品が生まれていることも驚きであるが、なによりヨーコの失策(浮気相手を与えたら、本気になってしまった)と腹黒さともいえる策略家の一面が強調される。もちろん悪役ではないのだが、ピースフルな愛のレノン一家の歴史観──ヨーコ史観とでも呼ぼう──では抹消された事実が浮かび上がる。

ジュリアン・レノンもよく出てきて、彼の母シンシアのふたりとジョンの間をメイが取り継いで、旧家族と仲良くしていたところに彼女の人間性が読み取れる。対して、ヨーコは独占欲が強く、人や関係をコントロールしようと試みる。ジュリアンや(作中出てこないが)ショーンを思うと複雑な気持ちになる。

酒とドラッグと音楽のハチャメチャに過ごした失われた週末という概念はここでは崩れ、半分合ってはいるが、ヨーコの独占がなく、ジョンが社交的に過ごせていた期間であることが伺える。ボールとも久々に会っている。


ジョンが不在の世界だが、ヨーコは存命であり、そのうちに発表することは、反論や訂正の機会を与える。おそらくヨーコ側からの反応はなく、その後の歴史観にもあまり影響は与えないであろう。
とはいえ、既存のジョンとヨーコの愛やなんやを疑ったり覆す意図ではなく、シンプルにメイの視点から事実ベースで歴史を補足する爽やかさに好感がもてる。


貴重な映像や初出の写真は多くありつつも、時折チープな再現映像(いや、逆に映像としてはきれいなのだがフリー素材感が否めない)や謎選曲のサウンドトラックが注意力を散漫にするが、ジョン好きには観てほしい一作。