パングロス

トラペジウムのパングロスのレビュー・感想・評価

トラペジウム(2024年製作の映画)
4.0
◎アイドルになる目的のため友達作りする狂気

本作の原作者(高山一実)についても何も知らなかったが、ジャーナリストの松谷創一郎氏が本作を観たと発信されていたので気になり、急遽観ることにした。

主人公の東ゆうが、アイドルになりたいという自分の目的を隠して、グループメンバーとして想定した南、西、北のニックネームに合う高校生に接近して友達となり、目論見通りにアイドルデビューを果たすという話。

どうも、主人公がクズ過ぎるとかで、賛否両論が巻き起こったらしいが、アニメ表現含めて、たいへん感心しながら観た。

【以下ネタバレ注意⚠️】




まぁ、松谷さんも書かれているが、主人公がクズだという話は、ゲーテの『ファウスト』を筆頭に、古今の名作にも数多くあるわけで、それによって作品の評価を下げる理由にはならない。

もちろん、本作が描きたかったのは、ゆうが実際にアイドルになったことではない。
その目的のために友達を作り、その友達を将棋の駒のように利用してアイドルにはなったものの、その間違った手段によって、大切なはずの友情も、友達であったはずのメンバーの心も壊れてしまったという「失敗」こそが物語の核心だ。

本作に難点があるとすれば、実際には難しいはずの「アイドルとしてデビューすること」が特に困難もなくスルスルと実現してしまうこと、メンバーの心が壊れてしまうほどのアイドルとしての過酷な活動の描写が薄いこと、一度崩壊した4人の友情がラストであっさり回復してしまうことなどが指摘できる。

ただ、そうした欠点はあっても、4人のデビュー曲披露の場面のモーションキャプチャーによるリアルで飛び出すようなアイドル感のみずみずしさや、アイドル活動を続けるなかで、次第に、ゆうの狂気があらわになる様などにはハッとした、という以上に圧倒された。

その他のシーンでも、登場人物たちの描写は基本的に典型的なアニメキャラなのに、電車の吊り革が揺れ動く様や、海辺に打ち寄せる波の表現、赤に変わった瞬間の信号の描写などに、時折りリアルな実写ベースのCGが取り入れられていて、物語の産み出す感情に深みや陰影を与えていることに驚かされた。

あと、ゆうのお母さんが、きちんとマトモな人で、ゆうの立ち直りも彼女がそばにいたからだ、というのが良かった。

物語の構成として不充分な点はあっても、実際にアイドルだった高山一実氏が原作者であることや、声の出演者にJO1の木全翔也氏が参加していることなどを含め、ある種のアイドル論として充分興味深い作品となっていると思う。

《参考》
*1 怪作『トラペジウム』に集まる「主人公がクズ」評──幼さと狡猾さが同居する「性根ガッサガサ」のリアル
松谷創一郎 ジャーナリスト
5/20(月) 5:05
news.yahoo.co.jp/expert/articles/08acbb6a13217d1319a106ecc6d76586ec3b7718

*2 『トラペジウム』の酷評に対して
しょうけんw
2024年5月12日 21:01
note.com/shooken_2/n/ne975933ef3d1
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