このレビューはネタバレを含みます
これは恋愛映画のオールタイムベストに入るかも!
あー女性監督の作品だろうな、これは!と見ながら思ってた。
やっぱり監督脚本共に女性。
レミニセンスとかthe OAとか、マッドメンとか...女性監督脚本で撮る恋愛映画はすごく情緒的で女性に自主性があって、男に脆さがあるのがたまらない。
女の自主と男の脆さを感じるのって、それだけ今までの男性監督脚本が圧倒的だった映画作りでは、男性キャラに主導が常にあって、女性キャラが「謎」にされてきたかっていう事実の裏返しじゃないかな。
そして、主人公の2人だけの世界にするときに、彼らを囲む世界観ごと作り上げてるのも特徴かな。
この世界ではアメリカ田舎町の夏ゴシックという新ジャンル。ヨーロッパ的にするでもなく、あくまでアメリカの環境で文芸的な幻想世界を作る試みだったと思います。
こういう世界観に馴染む、脆さがアイデンティティにあるような男たちを誰が演じるのか...
ジョンハム、ジェイソンアイザック、ヒュー・ジャックマン...等々女性監督の恋愛映画に出てる名優たちがいますが、マーティンフリーマンはちょっと異質で。
いうなればコリン・ファース系統というか。やっぱり英国俳優とか欧州系の俳優に多いような、肉体ではなく情緒的な色気。それこそ乾いてると言ってもいいような。
その中でも小柄なマーティン。
シャーロックホームズやオフィスのように、男性キャラと組んで末っ子的な可愛さを出す役が多く、恋愛映画でも色気というより可愛さでもって魅せるタイプという感じだったので今回の役は割と新鮮かも。
実際に女性が思い描く「dream man」はフェロモンぷんぷんのマッチョとかイケメンより、こういう脆くて些細な機微に敏感でゆったり構えているタイプなんじゃないかしらん。
かえって今までの役よりも、圧倒的に男っぽいという。最初はゴスな大人っぽさのあるジェナと釣り合うのか??と思ってたけど、正解だった気がする。
小柄だからこそ、さらに小柄なジェナに体格的に圧倒的なハンデをつけないからパワーバランスが絶妙。
小説シーンに反映される、実際にはなかった情事の描写が酸っぱい。実生活での例えば耳打ちみたいな、ちょっとした接近が幻想世界での背後からの吐息へと転化されてく感じとか。
この手の若い想像力の酸っぱさは、身に覚えのある観客も多いのでは。
ストーリー展開も上手い。
教師と生徒ジャンルは数あれど、ジャンルを逆手に取る。
ここのところ、本国では誤解してる観客もいるのでは。本国ではこの映画は演じる2人の30歳差という時点から嫌がられたようで、異様なバックラッシュを受けている。
しかし、この映画は少女の成長と中年男の中年の危機という取り合わせを冷徹に描くことで、むしろ教師・生徒ものの露悪的な性質には批判的に作られてる作品だと思う。
そして、そういうジャンルへの批判精神を超えて、ちゃんとこの映画として展開してる。
例えば、劇中劇展開を上手く取り込んでる。
少女の火遊びではあるんだけど、その動機が欲望だけでなく結構理知的かつ支配的で。だからこそそこにある欲は底知れず恐ろしい。
性的なシーンも非常に上手く使えっていたと思う。
従来は、このテーマだと2人の性的シーンが中心になりがちで、ほぼほぼ生徒である女子側の性的シーンが求められる傾向にあったと思う。でもこの映画でintimateシーンがあるのはむしろミラーのほう。
あれがあることで、成人であるミラーのほうの偽善が容赦なく浮き彫りになる。それによって年上男のダンディズムとかマッチョイズムの幻想が打ち砕かれてる。
それに対して、カイロの方は人生の生き方として偽善者とミラーを貶す。これは欲だけじゃない、ティーンの正義感を貫くストレートな人生観の残酷さ。
これにちゃんとミラーの中年の危機が砕かれてるのがいい。
だからこそ、2人が関係を持つことはないし、それにも関わらず実際に関係があったほうがマシなぐらいの人生に影落とす罪悪感に苛まれるわけで。
欲の描写を露悪的なほど性的シーンに頼る作品よりも、かえって凄みのある仕上がりでした。
その辺スリラーと言ってもいいくらいなんだけど、最後は優しくて。幻想シーンか回想シーンか...ミラーが座っているカイロの横にしゃがんで目線を合わせる優しいシーンがすごく救いだった。
これが描けるのはやっぱり女性監督かなあ、なんて思うのですが。
ジェナとマーティンのケミストリーも良かったし、この監督の次回作も楽しみ。