リミナ

ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉のリミナのレビュー・感想・評価

4.1
※原作ゲーム後追いでプレイ、アニメはRTTTのみ視聴済み

フジキセキの疾走する姿に見惚れフリースタイルから転向したジャングルポケットを主人公に、同世代のライバル達と切磋琢磨し最強へと至る物語。

開幕からゾートロープによってウマ娘の走る様子を映し「この作品は違うぞ」と思わせてくれる。シリーズ初見に向けた説明の導入も退屈しない。また、この描写は後の筋線維のシーンにも活きてくる。

全編に渡って目を引くのはキャラの感情溢れた表情、そして見せ場となるレースの臨場感。普段は可愛らしい表情でも、この場面なら自然とこういう表情になるだろうというものをピンポイントに捉えてくる。その感情に呼応するように表情は歪み、濃いタッチ線を重ね熱量を増していく。競馬場の実況席や観客席の反応と併せて、感情がダイレクトに伝わってくるからこそこちらも手に汗握る。

作画面はキャラクターが売りの作品でありながら自由度の高さを感じさせる。ギャグシーンでは時に人の形を留めないほどに崩し、カメラが引けば点すらない表情の省略もある。自由奔放なジャングルポケットとマッチ。一方でシリアスな場面になれば、憂い、鬼気迫る表情も見せる。芝居作画と併せて台詞なしでもキャラが何を想っているのか伝わるものに。
キャラ以外でも芝や葉っぱ、橋、枝垂桜、紙吹雪といった3DCGで作られることが珍しくない背景要素も時折作画で描かれることで背動のような心動かす独特の質感を出す。
画面作りでは、他の競技モノと同様、(会場により違いはあれど)ある程度決まった形状のコースで走るという行為の繰り返しの中、カメラワークや構図に工夫を凝らし飽きを感じさせない。アニメだからこそ競馬場で走るキャラの足元にもカメラを置ける。

演出面では本作のキーアイテムであるプリズムの他、水面やラムネ瓶に内なる心情の投影のように姿を反射させる見せ方、シネスコや舞台(枝垂れ桜・旧理科準備室の物品など)を活かしたメリハリのあるフレーミングやレイアウトによってドラマ性を引き立てていた。さらにカメラがFIXでもキャラが自然にフレームイン・アウトすることで会話シーンでも画面に引き込まれる。
また、音響面にも拘りを感じられ、レース中では風切り音や通過音のSE、重低音響く劇伴、走者の呼吸音が臨場感を高める。不穏な空気を出す場面ではノイズにも似た音が近づいてくる。ジャングルポケットにとってのアグネスタキオンという手に届かない存在は飛行機の音で繰り返し重ねていた。

シーン別では、引退したタキオンが部屋でレースの映像を眺めているときに自然と足を動かし前のめりになっていくシーンが印象的だった。終盤の描写の前振りとして機能している。

ただ、ラストで脈絡もなくライブシーン(ウイニングライブ)に突入するところのみは本シリーズに触れたことのない層にとっては唐突さがあったため、事前にライブシーンの前準備となるものがあっても良かったかもしれない。

総じて、本シリーズや競馬に詳しくない層が観ても十分楽しめる熱量の作品だった。
また、物語に史実に沿いつつ、さらにその向こうの景色を見せてくれるため、当時のレース映像や歴史的背景を知っておくとより楽しめる。
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