甲子園の魔王

大日本人の甲子園の魔王のネタバレレビュー・内容・結末

大日本人(2007年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

『ガキ使』を毎週録画し、『ごっつ』をGEOで借りて見ていた松本人志信者だった小学生の頃にDVDで本作を観た時は「…なんか違うの借りちゃった!」と全くハマらず、以降の映画作品も一回は観るけど観終わったらその都度松本人志の名誉のために記憶を消してきた。なので『大日本人』も内容はあんまり覚えてなかったのだが、久々に観てみると意外と面白かった。

この映画は主に2つのパートで出来ている。
ひとつは大日本人という、かつて栄華を極めたものの徐々に人々から疎まれるようになりいまや自宅の窓に石を投げ込まれるまでに落ちぶれた巨大化ヒーローの悲哀溢れる日常をとらえたドキュメンタリーパート。そして『ごっつ』等のテレビコントの空気をまといつつ“獣”との戦闘を繰り広げるバトルパート。この2つのサイクルで構成されている。
小学生の頃は笑える要素をコント部分に求めてたからバトルの間に挟まるさえないオッサンの日常がだるくて長くて飽き飽きしてたけど、今みるとドキュメンタリーパートの方が面白い。松本人志論でよく言われる、悲しい笑いが詰まっているし、ディレクターのデリカシーのない質問と容赦ない追及がそれを引き立てている。
ただこれあれだな。俺がモキュメンタリー好きだから楽めてるだけかもしれんな。非実在の生物を狩る職業を追うという意味では『トロール・ハンター』にめっちゃ近い感覚。
あと”悲しい笑い”は映画という媒体とはあんまり調和しないかも。特に映画館みたいな不特定多数の人間と作品を共有する場においては、笑いどころが難しい作風はかなり厳しいと思う。

あと見返してて気付いたけど大体25分前後で1つのエピソードが区切られる章立てになっている。アニメとか特撮の尺に合わせて脚本きったんかな。

ギャグの好き嫌いは置いといて、賛否分かれる点としてスーパージャスティスが登場してからの終盤の着ぐるみ戦闘があげられる。
これまで恐怖から鬼との戦闘を避けてきて、わずかな信頼さえ失墜した大佐藤がマネージャーとディレクターにすら裏切られ見せ物として戦いの場に駆り出されるまでの残酷な流れが美しかったので、その積み上げてきたストーリーを唐突にぶっ壊すあの爆弾には怒る人もいるだろう。個人的には以降の展開もそれはそれで楽しめたけど、それまでのテンションとは完全に切り離す必要があった。
でも海外で一部カルト的人気があるのはこの転換と着ぐるみでの暴力的なバトルのおかげなんだよな。

それぞれの獣を担当する芸能人のキャスティングには疑問があるが、獣のデザインは悪くないし、登場時のノイズのかかった大日本帝国的アナウンス演出も格好良い。
BGMも良かった。特に鬼が登場した時の不安感を煽る不協和音はそれまでの獣とは明らかに異なる脅威が現れたなというのが一瞬で理解できる。
ただSEはセンスが悪すぎる。夢遊病の4代目が昇天するシーンが顕著。あんなんで笑わんて。


松本人志の以降の監督作品は今観てもなかなかキツい事が予想できるけど、本作だけは再評価される余地があると思うのだが…世間様におかれましては、いかがでしょうか。
甲子園の魔王

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