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旅芸人の記録のKYのレビュー・感想・評価

旅芸人の記録(1975年製作の映画)
4.2
テオ・アンゲロプロス監督作。
ギリシャ映画。

舞台を上演して各地を回る旅芸人一座の1945年前後10年の姿を通じ、古代神話から現代に至るギリシャの歴史を語る壮大な作品。巨匠アンゲロプロスの4時間映画って地点で相当にハードル高いが見てみた。

『ナチスドイツの圧迫が終わったと思ったら内戦というさらなる悲劇が起きてしまう』という1945年前後のギリシャの10年は、第二次大戦が終われば争いが瞬時になくなった日本に生まれた自分からするとかなり強烈だった。これを軍事独裁政権下で撮った監督の強い想いも感じる。

正直前半2時間はかなり眠い。広い画でワンシーンワンカットの連続に、さして面白くもない同じ舞台演劇を繰り返す旅芸人達。確かに広い画に特定の固定された複数人を並べる構図の特異さは感じるけど、中身は分かりやすいタイプの不遇だし。

が、2時間経過前後で一気に分かりやすくぶっちぎりな面白さになった。具体的にはナチス解放前、ギリシャ内戦直前あたりから。ロングテイクに慣れてきた頃合いで時代の変化が露骨に描かれ出す。

ナチスから解放され連合国の国旗を持った人々が広場に集まるとそこに共産主義の集団もやってくる。まさに2つの価値観が1つの国に同時に共存する内戦状況の誕生を、ワンシーンの中に2つの価値観を描く事で描いた場面はロングテイクの必然性を圧倒的に感じた。まさに時代が移り変わる瞬間でもあった。

同じ演目の舞台や繰り返されるチンドン屋的公演宣伝の行脚も時代によって受ける意味が変わるのも面白かった。そして旅芸人の一座を広い画で長回しで時には追いかけて撮るから人物一人一人に焦点がなかなか当たらずギリシャ人という群衆そのものを描いてるんだけど、時代は変わっても幸福な瞬間は一瞬で常に不遇で損な役回りのギリシャ人を描き続けててどうも切ない。

演奏会で自由を求める民衆と独裁側の対立を歌によるディスりバトルから、独裁側が銃という武力で民衆を黙らせ、そして民衆側が屈服する一連のワンカットも面白かった。まさに当時の彼らなんだろうと。そしてそんな悲劇を背負った旅芸人達(ギリシャ人達)がそれでも次世代に舞台を継承させていく姿に何か人間の凄さも感じた。それでもバトンを繋いでいかなくちゃなんだよなぁと。

ただ残念なのは自分が全くギリシャ悲劇に詳しくないのだが、どうやらこの映画は登場人物がギリシャ悲劇の登場人物の名前を持ち古代ギリシャ史も同時に暗喩で描いているらしいのだがそこは全く理解できなかった。かなり凄い映画だと思うんだけど、それでもまだ半分も理解できていない。
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