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Zのukigumo09のレビュー・感想・評価

Z(1969年製作の映画)
4.0
1969年のコスタ=ガヴラス監督作品。ギリシャ出身の彼は若いころ父親の政治的な立場などが影響し、パリへ移り住むことになる。ソルボンヌ大学では文学を専攻していたが、しばしばシネマテークへ通い、映画を観ていた。その時特に感銘を受けた作品はエリッヒ・フォン・シュトロハイム監督『グリード(1924)』で、映画における深刻さはここで発見したようだ。その後映画を学ぶために高等映画学院(IDHEC)に入学する。彼はジャック・ドゥミやアンリ・ヴェルヌイユ、ルネ・クレマンなどの作品の助監督をして修行をするのだが、ルネ・クレマン『Le Jour et l’Heure(1963)』の助監督をしていたときにイヴ・モンタンと出会い、仲良くなったようだ。その後コスタ=ガヴラスが『七人目に賭ける男(1965)』で長編監督デビューする際、イヴ・モンタンは殺人事件の謎を解く刑事として主演している。
コスタ=ガヴラスは1967年にヴァシリ・ヴァシリコスの小説『Z』を読み、即座に映画化を決意した。難航していた脚本作りはスペイン人のホルヘ・センプルンに協力してもらいコスタ=ガヴラスと共同で書き上げた。原作自体が1963年のギリシャ軍事独裁政権下で起きた左翼政治家グリゴリウス・ランブラキス暗殺事件を基にしているため、制作資金を集めるのもまた難航した。この作品を作る意義に同調した役者たちは利益が出るまではノーギャラという破格の契約で出演したようだ。『七人目に賭ける男』に出演していたジャック・ぺランは本作では出演だけでなくプロデューサーとしてもクレジットされている。ぺランが奔走してアルジェリアのハーメッド・ラチェディというプロデューサーの協力をとりつけたおかげで制作することができたのだ。本作の制作国がフランスとアルジェリアの共同制作となっているのもそういったいきさつからである。 

地中海に近い某国、軍事独裁体制に反対する勢力も大きくなっていた。その指導者はZ氏(イヴ・モンタン)という正義の男で、町で開かれる集会で演説をする予定だった。様々な妨害があり場所を変えるなど対処していたものの、Z氏は暴漢に襲われて死んでしまう。警察は頭の傷は自動車事故でできたものであると発表し、予備判事(ジャン=ルイ・トランティニャン)も事故死として判定しようとする。しかしZ氏の友人たちの訴えにより、予備判事は本格的に調査を開始する。検視の結果頭部の2度の打撲が致命傷と判明する。新聞記者(ジャック・ぺラン)の協力を得て、Z氏に接近した三輪自動車の目撃情報を集めると、やはりこの車に乗っていた人物がこん棒で殴っていたのだった。捜査を進めると殴った男やその仲間は警察と繋がりがあると判明する。政治的な力が働いた計画的な殺人であると突き止めた予備判事は警察組織の幹部7人の告訴に踏み切る。

本作は正義が最後に勝ちそうなところまで行きながら、強大な権力に跳ね返され、結果として弾圧や支配は強化されてしまう。しかし真実を求めて戦う予備判事やマスコミの勇気ある行動には胸が熱くなる。『Z』というタイトルはギリシャ語の「Ζει」に由来し、「彼(ランブラキス)は生きている」を意味する政治的抗議のスローガンである。こういった政治問題を扱った作品でもサスペンスフルに描くことで、ある種の娯楽性も生まれ、観やすいものになっている。コスタ=ガヴラス監督はこの路線で『告白(1969)』や『戒厳令(1973)』も撮っており、いずれも力強い作品で必見である。
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