あ

季節のはざまで デジタルリマスター版のあのレビュー・感想・評価

5.0
「ミッキーマウス」という堅牢な著作権の砦に身一つで突っ込んでいく強気なスタイル。好き。

情事に揺れるエレベーターが、上階と下階、現在と過去を揺れるワイヤーで貫いているところから、もう完全に引き込まれました。

この監督は、やはり現在と過去、あの世とこの世、空想と現実、全ての境という境を完全に気にも留めておらず、殆ど曖昧な記憶だけを大切にされているのかな、と再認識させられました。スイスから海が見えるか見えないかを問うのは、ここではナンセンスなわけです。

シュミットの最期は病気との戦いで大変だったと思いますが、最終的にはホテルの家族とイマジナリーフレンドと共に、あの螺旋階段を登って綺麗な海を見たんだろうなと思います。浸れるノスタルジーがある人は本当に幸せですね。侯孝賢を見ていても思いますが。

最終的には、時間は一方的に人に干渉してくるが、人はただ時間の流れに乗るしかないという、どこか悲観的な語り口を感じる反面、ただその時間の流れの中で記憶と遊ぶ子供らしさというか、逆に洒脱な大人らしさというか、人が悲しみや無力感から乗り越えるために目指すべき諦念を教えてくれている感じが、シュミットに惹かれる所以かなと個人的には思います。

そして、記憶を通してだけ降りることが許される浮世離れした下階の世界を、フランス語が充満する中でドイツ語で歌い切ったイングリット・カーフェンのハスキーボイスが圧倒的なムードを作り出して引っ張っていくスタイルに、こちらはただただ身を任せているだけでいい。最高の時間でした。やっぱりカーフェンがいるだけで、いい意味で時空が歪みます。

死者を迎えにくるような光に満ちたエレベーターの前で、高らかに歌うカーフェンの圧倒的存在感よ...

また相変わらず、唐突に始まる意味不明な儀式も面白く、死人が唐突に同居し始めたり、催眠ゲームが突然脱衣を誘発したりと、「今宵限りは...」の全編や、「ラ・パロマ」の冒頭の賭け事のような、こちらの理解を超えた好き勝手な遊びを始めるのは本当に大好きです。

メーナ成仏して...
あ