Monsieurおむすび

燃えるドレスを紡いでのMonsieurおむすびのレビュー・感想・評価

燃えるドレスを紡いで(2023年製作の映画)
4.2
#燃えるドレスを紡いで
服は何処へ行くのか?
その答えを求めて、世界中からゴミとして服が集まるケニアへ赴く、パリ・オートクチュール公式デザイナーであり、ファッション界の最先端を歩む中里唯馬の軌跡を追うドキュメンタリー。

サスティナブルを理想としながらも、その現実は想像以上に壮絶。
ケニアで古着として流通しながらも、需要を遥かに超える供給に「もう服を作らないでほしい」と漏らすケニアの関係者。その一方でスモーキーマウンテンを彷彿とさせるゴミの山に37年暮らし、ゴミから売れる物を拾い集め生活する女性からは「ここがなくなったら困る」とも。
消費を促す資本主義の巣窟のようなパリコレに参加する側からして、身につまされるような自己矛盾。
そこから始まるケニアのゴミ同然の服を用いてパリコレにメッセージを届けるという波乱に満ちた中里唯馬の挑戦は、実にドラマチックでワクワクとハラハラの連続だったし、思いもよらない技術も多数登場し感心させられるばかり。
中里唯馬の自分の生業に懐疑的になりながらも、ファッションが持つ力を信じ、自分の言葉とアイデアをのせて発信していく姿や、チーム一丸となってミッションをこなしていく姿は、さすが業界の先頭で旗を掲げる存在だなと思わされるし、柔和な佇まいの中にしっかりとした情熱があるのも感じ取れた。


定点観測のような凡庸なドキュメンタリーと違い、被写体の自然さと心の声を捉える距離感が素晴らしく、劇映画のような演出や音楽の使い方も楽しませてもらった。
「ファッション・リイマジン」とも通底するファッション業界の伝統と権威のど真ん中で変革の声をあげる意義ある作品。
他人事ではないので、多くの人に観てもらいたい。
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