定点ショットとほぼ無音の長回しを基調とすることで、観客の知覚を徐々に変化させていく。最初は牧歌的な風景や道路を「ただそこにある日常」として眺めるが、単調さが続くことで感覚が過敏になり、雲の影や光の揺れといった最小の変化までも出来事として強く意識される。やがて車が一台通過するだけで、風景全体が一気に劇的な出来事へと変容する。長時間同じフレームを見続け、風景そのものと同化する事で、わずかな外的侵入が強烈に知覚される様になる。

この効果は、ブレッソンが「俳優の仕草を削ぎ落とすことでドアの開閉が事件になる」と語った美学にも通じる。情報を極限まで純化することで、普段ならノイズに埋もれてしまう要素がむき出しの情報として届き、解釈を介さずに直接感覚へ作用する。つまり映画は「物語を伝えるメディア」から、「純粋な知覚を伝達するメディア」へと転化する。Small Roadsの核心は、この日常が非日常へと反転する知覚の閾値操作にあると感じた。
今まで疑ってかかっていた豚カツを塩で食べる人間の気持ちがわかったかもしれない。

道をフィクスで撮るだけだが、その場に固定された人工物の稼働音や車両などといった所在の明確化、気候における明度の変化と風の発生による物体の揺れやそれに伴い発生する音、フレーム外を想起させる鳥の鳴き声やズームでなければ認識できない虫の羽音など、場を分解して観察することに長けているのではないかと感じる

2024｜116｜45,71