ワンコ

医学生 ガザへ行くのワンコのレビュー・感想・評価

医学生 ガザへ行く(2022年製作の映画)
5.0
【長い長い戦争】

ドキュメンタリー映画「医学生 ガザへ行く」の本編とは別に、この作品の主人公でガザに爆発性弾丸による外傷の研究で留学していたリッカルドのインタビュー映像が流れ、現在のガザの状況も踏まえた考えも話す。

“シネマ・チュプキ・タバタ”だからこその上映だったのかもしれないが、全国各地、もう少し多くの映画館で上映出来れば良いのにと思う。

イスラエルによる、おそらく武装組織の拠点への不定期な攻撃を除けば、このリッカルドの留学時のガザの人々の暮らしは普通のようでもある。

パレスチナ人の人柄も、イスラム教の戒律の違いこそあれ、人間は皆同じなのだと思わされる。

だが、ミサイル攻撃は行われ、デモがあればイスラエル兵が容赦なく発砲してくる。

5月20日国際刑事裁判所がネタニヤフ・イスラエル首相を含め5人のイスラエル政府要人に逮捕状を発行

5月22日アイルランド、スペイン、ノルウェーがパレスチナを国家として承認(※リッカルドはイタリア人留学生だが、映画はスペイン映画だ)

5月24日国際司法裁判所がイスラエルにガザ 地区への即時停戦命令を発布…など、

国際社会のイスラエルに対する見方が急激に厳しくなっているが、停戦の見通しは未だたっていない。

映画「エンテベ空港の7日間」でも触れられるが、この作戦でネタニヤフは兄を失っている。
そのため、ネタニヤフを合理性だけで理解しようととしても無理だと言う人がいるが、それをこんな虐殺の理由にして良いのだろうか。

この戦闘の発端は確かにハマスによる数千発にも及ぶイスラエルに対するミサイル・ロケット攻撃だが、その後のイスラエルの攻撃によるガザ地区パレスチナ人の死者が2万を超え、その半分が子供や女性だということはジェノサイドと呼ばれてもやむを得ないと強く思う。

ナチスによるユダヤ人虐殺などユダヤ人に心を寄せる人は多かったと思うが、おそらく世界中の人々の彼らに対する見方は変化してしまったように思える。

リッカルドは終映後のインタビュー映像で、各国はイスラエルに武器を送らないで欲しいと訴えていたが、アメリカ政府がやっと5月7日に、民間人の犠牲が続いていることや、大学生を中心にパレスチナ民間人の犠牲が甚大だとしてデモを繰り返していることを背景に、武器供与の一時停止を明らかにしたが、ネタニヤフは依然として強硬であり、逮捕状の請求や国際司法裁判所の即時停戦命令で更に苛立っているように見える。

僕たちは、こうした大規模な惨劇があって初めて、こうした事態に注意を払うようになるが、リッカルドが話すように、こんな事態は、オスロ合意の後でも、これより小規模でもずっと長い間続いていていたのだ。

もっと多くの人が思考停止を止め「関心領域」を広げ、ハマスを支援するイランや、この地域の歴史、ナチス以外のユダヤ人の迫害の事実も含めて熟慮する必要があるような気がする。

リッカルドの友人が無事であることは幸いだが、それぞれ皆家族や友人があって、安否の確認は難しいだろうことも胸が苦しくなる。
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