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ラジオ下神白―あのとき あのまちの音楽から いまここへのkeeeeetのレビュー・感想・評価

3.0
2024
27/100

題材は興味深いし支援活動そのものには素直に感心する。活動は長く続けて欲しい。出来ればもっと広まって欲しい。団地の人々とのコミュニケーションも凄く素敵だと思う。それをもって「いい映画」というのは簡単だけど、ドキュメンタリー映画として凄く面白かったかと言われれば、そこまで面白くはない、というのが本音。

まず初めて知ったことがたくさんある。
福島出身なので浪江・双葉・大熊・富岡といった町名は全て耳馴染みがある。そしていわきに避難している被災者が一定数居ることも分かっている。しかし恥ずかしながら「下神白団地」は全然知らなかった。

そして“伴奏型支援”という言葉も初めて聞いた。
カラオケは流れる演奏に歌い手がついていくが、本作で挑戦しているのはその逆で歌い手のテンポに寄り添いバンドが生演奏する、というものだ。絶対普通に演奏するより難しいはずだが、中心人物アサダワタル氏と仲間達の真摯な取り組みがプロジェクトを実現させる。

住人たちとのやりとりはほのぼのしていて「震災の悲惨さ」のようなものは出てこない。勿論現在に至るまでにシビアなバックボーンがあることは間違いないのだがそこは感じさせない。しんみりさせるのが目的では無いはずだしそれで良いと思う。

じゃあ何が「うーん」という部分なのかと言えば特にトラブルもミラクルも起きないところだ。ありのままをそのまま映すだけなら支援活動の「映像記録」だ。社会に対して問題提起をするわけでもなく、観てる側に何かを投げ掛けているわけでもない。だから映っているものを素直に受けとるしかない。「こういう活動があるんだー」と感心はするが、そこから自分に出来ること・考えるべきことはなんだろうと内省させてくれるようなパワーは本作には無い。
ドキュメンタリーならドキュメンタリーなりのカタルシスがあっていい。別にお涙頂戴的な演出をしろというわけではなく「本番」に向けてエモーションを高めるような構成にすることは可能だったと思う。それくらい「音楽映画」に化けてくれることを期待し過ぎてしまった。これは自分のハードルの上げ方が悪かったのかもしれない。

何度も言うが支援活動自体は素晴らしいし、もっと知られていい。70分という見易い尺なのはありがたい一方、この活動を広める上で「映画」というメディアを活かしきれてはいなかったと思う。
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