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イカとクジラのKのレビュー・感想・評価

イカとクジラ(2005年製作の映画)
5.0
あのノア・バームバックの初期作品なのに地味なポスターにそそられなくてずっと放置していたのを心底後悔した。傑作。『マリッジ・ストーリー』や『バービー』の源が確かにここにあった。自伝的作品(本人は否定)と言われるだけあってバームバック節がぎゅーっと濃縮されている。

あらすじだけ読むと「離婚後に絆を取り戻そうとする家族の話」のようだけど、実際見てみたら「父と息子が己の男性性を認め、乗り越えようとする物語」だった。
劇中に出てくるディケンズ、カフカ、『ママと娼婦』、『勝手にしやがれ』、ピンク・フロイド等を私も同じように通ってきて、同じように偉そうに受け売りしてきた身なので、本当に恥ずかしく、惨めな気持ちで見た。
でもやっぱり台詞が抜群に面白いし、役者達の演技も研ぎ澄まされているから、苦しいんだけど笑える。日本語字幕上だと異なる台詞に翻訳されてしまっていたけど、"Don't be difficult."(「俺に逆らうな」「俺を困らせるな」等の意味)という父親の口癖を息子が無自覚に受け継いでいたのが恐ろしくもおかしかった。

本作の製作陣にはウェス・アンダーソンの名前が。
ウェス・アンダーソンの作品の中でもバームバックが共同で脚本を書いた『ファンタスティック Mr.FOX』が一番好き。
本来、二人の作風は真逆と言っていいほど異なるはずだけど、友情の力なのかこうして素晴らしいコラボレーションが行われていて尊い。
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