Larx0517

イカとクジラのLarx0517のレビュー・感想・評価

イカとクジラ(2005年製作の映画)
3.9
「僕も俗物だよ」

10年以上ぶりに、再鑑賞してようやく分かる。

一番幼いながらも、こう言える次男フランクが、「最強」にして、家族で一番幸せなのだと。
自分自身、そして家族をありのままに受け入れることができる勇気。
ある意味、幸せになる「潜在能力」が高い。
「素行」には問題があるが。

ノア・バームバック監督のオリジン(原点)。
自身の離婚を元に製作した、『マリッジ・ストーリー』もそうだが、より「洗練」されていた。
両親の離婚を元に製作した、今作が彼の一番パーソナルな作品。

「パパは高尚すぎて売れないだけだ」
鼻持ちならない、皮相浅薄な父。

父を盲信、崇拝する長男。
「(ソフィーは)かわいい?」
自分の価値観よりも、他人からの視線が大事。

彼らは小賢しい学術語を使いながら、「学歴」「社会的地位」など、誰にでも分かりやすい評価が好きなのだ。
言い換えれば、父と長男が見下している俗物。
それこそ彼ら自身なのだ。
だからこそ、他人を否定して自分を守る。

「いい思い出」で、長男ウォルトが、敬愛する父でなく、母との思い出話をするのも皮肉。
それも、見下している「修士号」のカウンセラーに指摘されるまで、自分では気づけない。

「だってたかだかバーガーで」
ラスト近くの妻の笑わずにいられない感情も、夫には永遠に分からない。
なぜなら「分からない」ことが、彼自身の存在意義を支えているから。
そしてその「構造」に、自ら目隠しし続ける夫を、妻は見捨てる。

女は、永遠に自分で「分からない」男に絶望する

今回再鑑賞して、父バーナードも可哀想な人間なのだと思えるようになった。
同じ轍を踏もうとしていた、長男ウォルトには、「気づき」という救いがもたらされるが。

再鑑賞して、自分の「影」である、この映画の登場人物を、このように淡々と描き切るバームバック監督の冷徹な視線に改めて驚かされる。
そしてその冷徹さをベースに、全編に人間を「見限らない」優しい視線が貫かれている。

見終えた後に、絶望して終わるような思考停止で終わらせない。
映画を自分に引き寄せ、自分の内側をのぞき込むようになる。
普段「目隠し」している盲点を探すようになる。
これこそバームバック監督の真骨頂。

だからこそ、10年後の再鑑賞でも、全く違った「物語」が見れる。
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